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「待ってくださいよ、谷口さん」
後ろを追ってきた三嶋が、谷口と肩を並べる。
谷口より2歳年下の三嶋は、いつでも谷口をたてて敬語を使う。
「あいつらムカつきますね」
だが三嶋もキャリアだから、いつか谷口を置いて出世していく男だ。
しかしそんなキャリアでも、麻薬取締官に情報を提供しなかった谷口を非難する口ぶりはない。
谷口は、ようやく吸えるタバコを口に咥えると、黙ったまま火をつけた。
「あれ、どういう意味ですか?」
谷口がいつまでも口をつぐんでいるので、三嶋は耐え切れず聞いてきた。
瀕死の男が最後に口にした言葉を、谷口と一緒に耳にしていたのだ。
「あぁ?」
谷口は目を上げる。
吐き捨てるように言った。
「くだらねぇ伝説が、現実になりやがったんだよ」
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