3 李(リー)

1/10
前へ
/177ページ
次へ

3 李(リー)

応接室に、招いた覚えもないのに、その男が平然と座っていても、李秀英(リーシゥイン)は驚かなかった。 「是好的工作(いい仕事でした)狼先生」 それでもつい母国語で言ってしまったのは、ここが自宅だからだろうか。 慌てて、その男の容姿を見て言い直す。 「It was good work. Mr. Voltchkov」 男の容姿は、茶色い髪に透けるような白い肌。 背の高いスマートな肢体に英国製のダークスーツを品良く身につけ、高級なソファーに足を組んで座っている。 中国人ではない。 だがその男は、 「俺はアメリカ人ではなくロシア人だ。ここは日本なのだから、お互い日本語でいこう」 流暢な日本語を話した。 「わかりました、ミスターヴォルコフ」 リーも落ち着いて返す。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加