第1章

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夢を見る。 電車に揺られて本を読んでる。 そしたら誰かがこう言うの。 『今日は何を読んでいるんですか?』 男の人の声。 その声は優しそう。 『今日はこれ』 私はひょいと持ち上げて本の表紙を見せる。 『これ、面白いんですよね。僕も読みました』 『まだ半分しか読んでないから言っちゃダメだよ』 顔も、名前さえ知らないその人と私は毎晩夢で会う。会って楽しそうに話すの。 ずっと昔から知ってるみたいに。 『今日で君とはさよならだ』 『・・・どうして?さよならは嫌だよ』 『大丈夫。寂しくないよ。大丈夫だから』 30回目の夢の中、私とあなたはさよならをした。 その夢から覚めたのは通学途中の電車の中。 いつもは電車では見ないのに。 『ドアが閉まります』 人が流れ込んでくる。 そしてあなたは隣に座った。 「その本、面白いんですよね。僕も読みました」 聞き覚えのある優しい声が私の心を静かにさらった。
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