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「…え?」
彼女は、俺の発言に驚いたようだった。
まぁ、当たり前だ。
いきなりそんなこと言われても、戸惑わない方がおかしい。
「だからっ、あの!」
そう言って一歩彼女に近づいてから、ふ、と思った。
…あれ?
この人は、なんで一定の距離を保っているのだろう?
なんで、小学4年生の時に見た格好と全く同じなんだろう?
なんで、この人はこんなにも若いままなのだろう?
「…好きって言ってくれて、本当に嬉しかったよ」
俺ににっこり微笑みかけると、一歩後ずさりした。
「…でもね、私は君とずっと一緒にいることはちょっと難しいことだし、君はきっと私よりもいい人がいると思う」
「そ、そんなっ!」
「…ほら、言っていれば」
彼女は俺の後ろを指さした。
振り向くと、クラスメイトの女の子が、こちらに向かってきていた。
「あ、あれはクラスメイトで!」
慌てて向き直ると。
そこに、もうその彼女はいなかった。
…な、なんで?!
というか、どこに行ってしまったんだ?!
きょろきょろとあたりを見回していると。
「あ、あの!」
その向かってきた女の子が、俺に声をかけてきた。
「今、1人だったよね?…ちょっと、いいかな?」
1人だった、だと?!
どういうこと?!
すると。
『…ほら、話、聞いてあげて』
耳元で彼女の声がした。
ばっ、と振り向くと、目に入って来たのはさっき見ていた一際大きいヘチマだった。
心なしか、少しゆらゆら揺れている。
…まさか…
ヘチマの精?!幽霊?!幻覚?!?!
「…ねぇ、聞いてる?」
女の子にとんとん、と腕を叩かれ、我に返る。
「あ…うん。…何だった?」
「じ、実はね、私、このヘチマの水やりやってるの。そ、それで…」
そう言って、少し顔を赤くした。
でも、俺は大変に不謹慎なことに、別なことを考えていた。
…あぁ。
俺はこの世に存在しない幻に、恋、してたのか…
恥ずかしすぎる…
…でも、なんで彼女は2回も俺に話しかけたんだろう…?
とっても残念な、でも、少しだけ甘酸っぱい気持ちになりながら、女の子が頑張って言ってくれようとしている次の言葉を待つことにした。
俺の後ろで、くすくすと笑う彼女が立っている気がした。
Fin.
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