第1章

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彼女の大きな瞳が僕をとらえたまま動かない。 蝉は空気を読んだように黙りこんでしまった。 「え、なんて言ったの?」 静かな空間、彼女と二人だけの空間に凛とした声が響く。 ――このまま時が止まってしまえばいいのに、 これまで続けた幼馴染という関係に終止符を打とうだなんて思わずに、 居心地のいい、彼女の隣をずっと占領し続けていればよかった。 後悔が僕の胸を刺して息苦しくなる。 でも。 僕は自分の鞄につけた、キーホルダーを見た。 もし彼女が友達とのお揃いのキーホルダーを外して、 僕とお揃いのこれをつけたら、そのときは。 彼女に目を向けると、不思議そうな顔でじっと僕を見ていた。 「ずっと、好きでした。だから、」 彼女が小さな返事をした後、耐えきれなくなった蝉が一斉に鳴きだした。
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