第1章

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窓の向こうで静まる木々の情景に、私の寝ぼけ眼は、葉叢を果敢に突破した光を重たげに見つめるだけであった。小鳥達は首を顫わせ鳴いている。さも漂然と聞こえるコーラスには、駅舎内の陰翳に差し出す、招待券か何かを隠し持つ素振りがあり、待ち人は、朝霧に濡れた木材の香りに柔く包まれて陰翳に潜んでいた。彼女は、すぐに気づけないくらい自然と佇んでいたのである。彼女は本を読んでいた。擂鉢で紙魚でも摺ってかけたように紙の白さを汚す印象を持つ、馬鹿にでかい文字の娯楽小説であった。恋愛小説であろうか、コメディ小説であろうか、何にせよ寝起きに見た夢への恋しさだろう。毎日繰り返す発着までの穏やかな一時に、起床してからうねる呼吸のリズムがゆうゆうと満ちても溢れはしないのである。彼女は本に夢中である。私が彼女に幾度か声をかけると一言返すがまた本に耽りだした。私は合点した。彼女のしおりはページの先に挟まれていたのである。
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