蜘蛛の糸

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いつものように、閉まっている扉。 開けようか開けまいか、いつも躊躇してしまう。 朝、まだ他の教室には誰もいない時間。 教室の前で深呼吸をする。 一回、二回、三回……。 深呼吸をしても、全然遅くならない音に、いつも元気だな、なんて言ったらほら、笑顔の完成だ。 大丈夫だろうか、いつものように笑えているだろうか。 不自然だったらどうしよう。なんて、少し乙女チックになって、とりあえずまた深呼吸。 よし、行くぞ! 少し重たい扉を開く。 そうすると、彼がいる。 いつもの姿勢、いつもの格好で、読んでいるのはお気に入りの本。 いつもと同じなのに、また緊張している。これもいつもと同じだ。 おはよう。なんて言葉もかけられなくて、自分の席に座って、朝学習の準備をして、さて、どうしようかと考える。 少しは、毎日を変えてみたくなるときもあるのだ。 どれだけ臆病な人間でも心の奥底に冒険心が宿っているように、俺は彼との日常に、少しの刺激がほしくなった。 しかし、自分は臆病な人間の中でも一、二を争うほどの臆病な人間だと思っている。 声をかけるなんて事したら、緊張で心臓が停止するかもしれない。 いや、しかし、それでも、俺は男なのだ。こんなことで死にそうになっていたら、ダメだろう。
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