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「お母さん、助けて!
冬子ちゃんが私を連れて行こうとしてるの」
「もしかして神崎冬子か?」
吉村先生の声を聞いて、冬子ちゃんの手の力が緩んだ。
私はすぐに冬子ちゃんの手を離し、お母さんの後ろに隠れて先生の話を聞いている。
「あなたは誰?」
「吉村武だよ。
冬子ちゃんがいなくなった日から、俺は1人でも冬子ちゃんのようにイジメで苦しむ人を救おうと教師になったんだ。
冬子ちゃん、助けてあげられなくてごめんな」
先生の話の途中から、すすり泣く冬子ちゃんの声が聞こえた。
「武君、気付いてくれてありがとう。
私、ずっとさみしかったんだ。
武君の大事な生徒の美沙ちゃんを連れてはいけないね。
1人で逝くから心配しないで。
美沙ちゃん。 話を聞いてくれてありがとう」
冬子ちゃんの声を聞いたのはその日だけだった。
先生にも冬子ちゃんの声が聞こえていた。
でも、お母さんは何が起こっているか全くわからなかったみたい。
先生とはたまに冬子ちゃんの話をする。
私たちが冬子ちゃんを忘れない事が、冬子ちゃんにとって1番嬉しいと思うから。
完
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