白い箱

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 教室の戸を開けたら、そこには何もなかった。右を見ても白、左を見ても白、上を見ても下を見てもどこを見ても真っ白な壁しかない。  一歩引こうとすると、後ろから誰かに押された。倒れこみながら振り返ったが、影ひとつなかった。  起き上がるとすぐにドアに向かおうとする。 「あれ?」  いつの間にかドアが消えていた。なんだか箱に閉じ込められたみたいだ。どうすることもできず、ねっころがった。  ここ二十数年中に起きている都市伝説。その噂と似ている。ここは。  そう思いながら、うとうと静けさに身をまかせた。久しぶりかもしれない。連日、身を休める暇もなかったから。 「ヘーイ、楽しんでるかい」  心地よい眠りにつきかけたとき、妙に陽気な声に起こされた。回りを見渡すが、誰もいないし、スピーカーも見あたらない。 「なんか望みがあったら言いなよ、ベイベー。何でもここにはあるんだから」  妙なことをいうものだ。試しに水、と呟いた。  背後からものが落ちる音がする。振り向くと、ペットボトルが転がってきていた。  口に含む。 「あ、水だ」 「ヘイヘイヘーイ。ミーが嘘つくとでも思ったかい?」  普通は思うだろう。妙な部屋に入れられてるんだ。密かにシャツの影に隠れた時計を見る。もう、二時間もたっていた。  これは大騒ぎになっている。盛大なため息をついた。 「ため息なんてつくなよ、ベイベー」 「じゃ、食べ物、飲み物、トイレ」 「ヘイヘイヘーイ。無視ですかい?あぁ、そうですか、そうですか」  言いながらも、俺の目の前にはいったものすべてが出現する。ハンバーガーのでかさに顔が歪むけれども、ないよりはましだ。  オレはあとひとつ、要求した。 「水性絵の具とか、筆とか、絵を描くセットをくれ」 「金もたくさんあるぜ」 「そんなものよりも、絵を描くセットを」  先程よりも応対が遅い。一秒もかからず現れていたのに、最後に注文したものが届いたのはハンバーガーをやっと食べ終えた後だ。
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