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朝、彼女はいつもどおり駅にいた。
A「おはよう」
B「お、おはよう」
眼鏡越しの大きな目に、心臓がドクンと鳴る。
A「読んだわよ、詩集」
彼女は手の文庫本を少し持ち上げる。
B「う、うん」
彼女はちゃんと気づいている。
数日前、読んで欲しいと渡した詩集。
僕はそれに、メッセージを含ませた。
『僕』の視点で恋心を綴った詩のページに栞を挟んだのだ。
――呼び出して好きですって芸がないわよね。
以前、流行りの小説を捲りながら彼女は言った。
幼い頃から様々な本に触れてきた彼女らしい言葉。
だから僕は考えた。
きっと彼女は気づいているはずだ。
『僕』の詩の次のページに、『私』の視点で恋心を受け入れる詩が綴られていることも。
A「貸してくれてありがとう」
彼女は詩集を差し出す。
受け取ってパラりと捲る。
栞は『私』のページに挟んであった。
俯いた彼女の頬は紅かった。
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