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出会いの季節は春だというが、私と彼が出会ったのは六月の下旬、梅雨であった。
「お隣、よろしいですか?」
頭上から降ってきた優しい声に、読んでいた本から顔を上げる。そして、自分でも分かるくらいに動揺した声で承諾した。
「え、ええ」
私の返答に、少し驚いたようで「ありがとうございます」と微笑み、隣に座った。
土砂降りの雨がアスファルトの地面にたたきつける。無言だとこういう自然が作り出す音が、心地よく感じる。雨のせいか、土と葉の香りがする。とても良い匂いだとは言えないが、この季節独特の香りだとは思う。
ちらり、と声をかけてきた人物を見る。隣に人がいる、それだけだが読書に集中できなくなったのだ。
私と同じ高校の制服だ。紺色のブレザー、灰色のズボン。目を止めたのは、紺色のマフラーだった。まとわりつくような梅雨独特の湿度なのに、彼はマフラーをつけている。どうしてだろう、と内心で小首を傾げた。よく見ると顔も青ざめている。マフラーと顔色が悪いことを除けば、普通の男子高校生だ。何かの病気にかかっているのだろうか。それならば、学校で見かけない理由も分かる。もしかすると、特別学級の人なのかもしれない。
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