9人が本棚に入れています
本棚に追加
土曜日の夜。
僕がベッドに入った後、パパが帰ってきた声がした。
珍しくママが夕飯を作ってくれて、少しだけ機嫌がいいように見えたから、僕は安心して布団にもぐりこんだんだ。
だけど僕の期待は裏切られる結果となってしまった。
リビングの方からパパとママの言い争う声にまじって、何かの倒れる音や割れる音が響いてきた。
いつもとは違うその様子に、僕は怖くなって頭から布団をかぶると両手で耳をふさいだ。
ギュッと目をつぶって布団の中で丸くなっているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
日曜日の朝、いつものように少し遅めに目が覚めた僕は、パジャマのままリビングへ向かった。
きっと昨日の朝と同じようにママがキッチンに立って、朝ご飯の準備をしているはずだ。
「早く顔を洗って来なさい」って言って、カリカリのベーコンと半熟の目玉焼きを出してくれるはずなんだ。
そう信じて、僕はリビングのドアを開けた。
「……おはよう」
おっかなびっくり声を出す。
「ああ、おはよう」
リビングでは、いつもならもっと遅くまで寝ているはずのパパが、カーペットの上にしゃがみこんで何かをしている。
「何してるの? ママは?」
「ん? ちょっとな。夕べ、ワインをカーペットにこぼしちゃって。シミ抜きしているんだが、なかなか頑固でな。ママはおばあちゃんの所に行ったよ。朝早く電話があって、しばらくおばあちゃんの所に行くことになったんだ」
パパは顔も上げずにカーペットの上で一生懸命、手を動かしている。
ソファーとテーブルの間に転がったグラスと、倒れたワインのビン、そしてカーペットに広がった赤いシミ。
僕はそれを見た瞬間、背筋がゾッとするのを止められなかった。
「早く顔を洗って、着替えてこい。心配しなくても、朝ご飯はパパが作ってやる」
パパが眼鏡越しにチラッと僕の方を見て言った。
そのパパの目がなんだか……僕に対してウソをついているように感じられて仕方がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!