グラスのワイン

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顔を洗って、パジャマを着替えて、リビングへ向かう。 毎日やっている事なのに、今日は気が重い。 ママの代わりにパパがキッチンに立って、僕の朝ご飯の準備をしていた。 冷蔵庫から牛乳と食パンを出すと、自分でトースターに入れる。 コップに半分くらい注いだところで、牛乳がなくなってしまった。 「パパ、牛乳がなくなっちゃったよ」 「そうか、じゃあ買いに行かないと」 そう言ってパパが僕の前に皿を差し出してくれた。 焦げてところどころ黒くなってしまったベーコンとつぶれた目玉焼き。 トースターから飛び出した食パンにジャムを塗りながら、僕はパパに聞いてみた。 「ねえ、ママはいつになったら帰ってくるの?」 「そうだな、ちょっと長くかかるかもしれないな」 パパはまた、カーペットのシミの上にかがみこみながら僕に答えた。 僕は全然おいしく感じられないトーストをかじりながら、カーペットに広がる赤いワインのシミを見ていた。 あれは本当にワインのシミなのかな? 僕にはもっと別の物に見える。 ……そう、まるでカーペットに飛び散った血みたいだ。 タオルでカーペットを叩くパパの背中をぼんやりと見つめ、僕は胸の中にモヤモヤとした考えが浮かんでくるのを止められなかった。日曜日のホームセンターはお客さんで一杯だった。 家族連れを見るたびに、僕はどうしてここにママがいないのかと気分が落ち込んで来た。 パパは結局、カーペットについたワインのシミを取るのを諦めたみたいだ。 一緒にホームセンターに新しいカーペットを買いに行こうと誘ってきた。 赤い、赤いシミのついたカーペット。 そして、ここにはいないママの事。 「新しいカーペットになってるの見たら、ママが帰ってきた時に驚くぞ」 そう言ってパパは笑いかけてくれたけど、僕は笑えなかった。 もうママは帰ってこないんじゃないか、そんな気がして仕方なかったんだ。 でもそれをパパに聞くわけにはいかない。 きっとパパは『そんな事はない』って言うだろうけど。 今の僕にはそれを信じる事が出来ない。 パパは明るく僕に話しかけながら、お店に並べられたカーペットの見本を眺めて廻っている。 「よし、これにしよう。グリーンはママの好きな色だからな」 『ママの好きな色』だって。
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