グラスのワイン

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パパの言葉が白々しく感じられる。 何を話しかけられても、僕は生返事しか返せなかった。 ホームセンターの隣りにあるフードコートでお昼御飯。 好きな物を食べてもいいって言われたけど、きっと何を食べてもおいしく感じられないんじゃないかな。 「なあ、信弘。これからの事なんだけどな……」 パパがお皿のカレーをかき混ぜながら僕に話しかけてきた。 「パパは明日からも仕事に行かなくちゃいけない。会社には理由を話して、なるべく早く帰って来るようにするけど、お前の夕飯の時間には間に合わない事があるかもしれない。だからそんな時は、隣のおばさんに夕飯の世話をしてもらえるように頼んでおくから」 隣の家のおばさんは、僕が生まれる前から仲良くしてくれている人。 たまに遊びに行ってお菓子をもらったりする事もある、大好きなおばさんだ。 パパのおじいちゃんもおばあちゃんも、もう死んでしまっていない。 ママのおじいちゃんも死んじゃってるけど、おばあちゃんはまだまだ元気だ。 だけど『ママはおばあちゃんのところに行ってる』んだから、おばあちゃんがうちに来てくれる事はないだろう。 「……本当にママは帰ってくるの?」 ラーメンの丼に視線を落したまま、僕はようやくそれだけを言葉にする事が出来た。 「──どういう意味だ?」 テーブル越しに、パパが僕の事をジッと見つめているのが分かる。 「ううん、別に」 おはしで意味もなく丼の中のスープをかきまぜる。 「ママはおばあちゃんの所に行ってるだけなんだから、すぐに帰ってくる。パパの言う事が信じられないのか?」 パパの視線が痛かった。 まるで瞬きする事を忘れてしまったようなパパの目が、ジッと僕を見ている。 「信弘は何も心配する事はない。ママはちゃんと帰ってくる。パパと一緒にママが帰ってくるのを待っていればいいんだ」 それだけ言うと、パパはカレーのお皿を持って立ち上がった。 慌てて僕もラーメンの丼を持って立ち上がる。 僕は今、生まれて初めてパパの事を『怖い』と感じていた。 近くにあるスーパーで食品の買い出しをする。 朝ご飯用の食パン、牛乳、温めるだけで食べられるレトルト食品、カップラーメンなんかを買い込んだ。 カゴの中味を見れば、ママが当分帰ってこない事が分かる。 僕はどんどん気持ちが落ち込んでいくのを感じた。
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