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家に帰るとパパは僕に手伝わせてカーペットの上のテーブルやソファーをどかし始めた。
冷蔵庫に貼ってある「ゴミの出し方」という紙を見ていたパパが、リビングを出て行ったかと思うと大きなハサミを手にして戻ってきた。
赤いシミで汚れたカーペットを大きなハサミで切っていく。
「50センチってこのくらいか?」
生地が厚くてなかなか切れないみたいで、ハサミを動かしながらパパの額に汗が浮かんできた。
シミの部分にもハサミを入れていく。
僕にはどうしても血にしか見えないワインのシミが、パパのハサミによって切り刻まれていく。
それが僕にはママの笑顔が切られていくような気がして、叫び出しそうになった。
切り終わったカーペットの生地を重ねてビニールテープで結ぶ。
それを部屋の隅に放り出して、床の上に新しいカーペットを広げた。
家具を元の位置に戻してパパは満足そうだったけど、僕にはなんだか自分の家じゃないような気がして嫌だった。
変わってしまったこの家には、もうママが戻ってくる場所なんかないんじゃないかと思って涙がこぼれそうになった。
パパが切ったカーペットを部屋から運び出すために背中を向けた瞬間、僕は見つからないように涙をふいた。
「パパ。僕、ちょっと部屋に行ってるよ」
「ん、ああ」
まるでパパから逃げるみたいだ。
そんな事を思いながら、僕は自分の部屋に戻ってため息をついた。
「……ママ」
ベッドに腰掛けて膝を抱える。
パパはママは帰ってくるって言うけど、きっとママは帰ってこない。
だってパパは僕にウソをついてるから。
あのワインのシミはママの血なんだと思う。
いつものようにケンカをしていて、何かの拍子にパパがママを──。
そこまで考えて、僕は大きく頭を振った。
そんな事ない!
だって僕らは家族なんだし。
そりゃ確かに、最近のパパとママはおかしかったけど。
でも僕とパパとママは家族だ。
パパがママを殺しちゃうなんて、ありっこない。
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