グラスのワイン

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僕は自分が今考えた事に気が付いて、震えが止まらなくなった。 パパが、ママを、『殺した』? ──ずっと胸の中で思ってたんだ。 あんなにヒドいケンカをしてたんだ。 だから、パパがママを殺して……それでカーペットのついた血をワインでごまかして、ママの死体をどこかに隠した。 涙が止まらない。 「……ママ……ママ」 優しかったママ。 優しかったパパ。 「本当に──パパはママを殺しちゃったの?」 パパに直接聞くわけにはいかない質問を、口の中で呟いてみる。 ベッドにゴロンと横になった僕は、いつの間にか泣きながら眠ってしまった。 異変は夜になって始まった。 夕飯はパパが作ってくれたチャーハンだ。 「見てくれは悪いけど、味はまあまあだろ?」 そう言って笑うパパに僕も笑って見せた。 ちょっとしょっぱかったし、ご飯がベタついてたけど……。 「明日は早めに帰って来れると思う。ママが帰ってくるまでは不便だけど、お前も協力してくれ」 『ママが返ってくるまでは』 その言葉を聞いて、僕は飲んでいたお茶のコップを思わず倒しそうになってしまった。 「どうした、大丈夫か?」 パパが僕をジッと見ている。 やめてよ。 そんなにジッと見ないで。 「ごめんなさい。手が滑っちゃって」 モゴモゴと言い訳すると、パパは「気をつけるんだぞ」とだけ言って、またチャーハンを食べ始めた。 なるべく急いで食べ終わると、お皿とコップをキッチンへ持って行く。 「そこに置いておいてくれ」 パパが僕の方も見ないで声をかけてくる。 「うん、分かった」 せっかくパパが一緒にいてくれるのに、全然楽しくない。 ママが……ママが本当に帰って来てくれたら。 「お風呂に入ってくる」 それだけをパパに告げると、僕は一旦、自分の部屋に戻って着替えを引っ張り出した。
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