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引き出しを閉めてため息をついた時、廊下で何か音がしたような気がした。
「パパ?」
パパが様子を見に来たのかと思った。
でも廊下から返事はない。
「気のせいかな……?」
ドアを開けようと手を触れた時、また音が聞こえた。
何かを引きずるような音。
今度はちゃんと聞こえた。
なるべく音を立てないように、そっとドアを開ける。
そろそろと廊下をのぞいたけど、もちろん誰もいない。
「──?」
僕は首をかしげながらお風呂へ向かった。
パパはキッチンでお皿を洗ってる。
やっぱり、さっきの音はパパじゃない。
何だったんだろう?
考えても答えは出ない。
僕は服を脱いで洗濯機に放り込むと、浴室のドアを開けた。
少しでも体中のモヤモヤ感がなくなるようにと、頭から熱いお湯をかぶる。
勢いをつけてお湯をかぶっているうちに、ちょっとずつだけど落ち着いてきた。
いつもより多くボディソープをつけて、たくさん泡を作る。
ゴシゴシと体をこすって泡と汚れと一緒に、パパへの疑いも流してしまえ!
湯船一杯に入ったお湯の中に体を沈め、長く息を吐き出す。
どうして、あんな馬鹿な事を考えたんだろう。
パパがママを殺すなんて。
本当にどうかしている。
体が温まってきて変な緊張が抜けていく。
ママはきっと、おばあちゃんの体調が悪くなったかなにかで実家に行ったんだ。
そうに決まってる。
しばらく不便だけど、パパと一緒に待ってれば帰ってくるんだ。
両手でお湯をすくってバシャバシャと顔を洗う。
「ふぅー……」
お湯の中に鼻まで沈んで、ブクブクと口から空気を出してみた。
くだらない事をして、くだらない事を考えた自分を忘れたかった。
湯船から出てシャンプーを泡立てる。
その時だ。
洗濯機のある脱衣所で音がした。
「パパ?」
もしかして僕が出るのを待ってるのかな?
それとも一緒にお風呂に入ろうとしてるのか。
「パパ、入ってくるの?」
声をかけても返事がない。
探し物かな?
「パパ?」
シャカシャカと動かしていた手を止めて、もう1度呼びかけた瞬間だった。
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