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「みんなの家にもテレビはあるじゃない? それで、そのテレビから子供が出てくるんだって。こう、テレビの画面の中から手が出て来て、観てる子供をテレビの中に引きずりこんじゃうんだって」
「引きずり込まれた子供はどうなるの?」
「テレビの世界に閉じ込められちゃうらしいよ。それで、その子とそっくりの別人がこっちの世界で暮すんだって」
「えー、じゃあ入れ替わっちゃうって事?」
「そうみたい」
「それじゃあ、知らない間に入れ替わった子がいるかもしれないって事じゃん」
ヤダー、気持ち悪いー。
そう騒ぐ友達を見ながらHさんは(なんだ、思ったほど怖くないじゃん)と考えていた。
「手が出てくるって、貞子みたいだね」
という感想が出てくるほど、どこかで聞いた事のあるような話だった。
期待していた分、ガッカリした顔をしないようにするのが大変で、どうしようかと思っていた時。
「おーい、○○さんいるー?」
教室の入り口からクラス委員の男子が、Hさんの事を呼んだ。
「なに?」
「先生が5時間目で使うプリントを取りに来てくれって」
「分かった。ちょっと待って」
友人達に『ごめん、行ってくるね』と言い残して、Hさんは男子の方へ向かう。
職員室のある校舎は5年生の教室のある棟から渡り廊下を渡った向かい側にある。
4月も半分過ぎたというのに、なかなか暖かくならない日が続いていた。
窓から見上げた空はどんより曇り空で、雨が降り出しそうだ。
「傘……持ってくれば良かったかな?」
窓の外を見ていたHさんがそう呟くと、それまで黙って隣を歩いていたE君が口を開いた。
「さっき、話してたよね、『お化けテレビ』の事」
「え? うん」
「くわしく聞いた?」
くわしく? どういう意味だろう?
「あたしが聞いたのは、テレビから出てきた子供がこっちの世界の子供と入れ替わっちゃうって話だよ。でもそれって、いかにもありそうな話だよね」
渡り廊下の先は暗い影になっている。
急に廊下の温度が下がったような気がした。
「それじゃ、全部じゃない。本当の話を聞きたい?」
先を歩いていたE君が立ち止まった。
振り向きもしないでHさんに問いかけてくる。
「本当の話?」
「そうだよ。『お化けテレビ』って言われている話の、本当の事。知りたい?」
「う、うん、知りたい……」
様子のおかしいE君の雰囲気に気圧された事もあるが、彼の言う『本当の話』に好奇心が動いたのも本当だ。
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