テレビ

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「そっか。じゃあ、今日の放課後、教室に残ってて。本当の話を教えてあげるよ」 そうHさんに話しかけたE君の様子は、いつもと同じものだった。 「さ、早く先生の所に行って用事を済ましちゃおうぜ。昼休みがなくなっちゃう」 ◇ ◇ ◇ 授業が終わり、クラスメイト達がそれぞれの荷物を手に楽しそうに言葉を交わしている。 「Hちゃん、一緒に帰ろうよ」 仲良しのKちゃんともう1人の女の子がHさんの席まで誘いに来た。 「ごめーん。借りてた本を図書室に返しに行くんだ。多分、他の本も見て回ると思うから、先に帰ってて」 Hさんが2人に手を合わせて謝ると 「Hちゃんは本読むの好きだもんね」 「じゃあ、先に帰るね」 と笑顔で『バイバイ』と手を振りながら帰って行った。 本当は図書室に返す本があるなんてウソだ。 ただ、E君が言っていた『本当の話』を誰にも邪魔されないで聞きたかっただけ。 教室のあちらこちらで『じゃあねー』『また明日』『帰ったら遊びに行くから』などという声が飛び交っている。 (今のうちに、ちょっとトイレに行ってこようっと) きっと、他の生徒が残っているうちにはE君は話しかけて来ないという確信があったので、Hさんは席を立った。 トイレの前に立ってドアを開けようとした時、Hさんの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「ねえ、Hちゃんって最近、つまんなくない?」 「あー分かる分かる。こっちが話を振っても乗ってこないって言うか」 「って言うより、なんか馬鹿にしてる感じ?」 「そうそう。せっかく話に入れてあげようとしているのに、『なにそれ?』みたいな感じでさぁ」 聞こえてくるのは仲良しのKさんと、いつも一緒にいる友人達の声。 「いっそのこと、無視しちゃう?」 「でも、あの子ってマメに宿題とかやってくるから、便利なのよねー」 「宿題かぁ、それは重要だよね」 それに続いて笑い声。 Hさんはトイレのドアから手を離すと、教室へ戻って行った。 (仲良しだと思っていたのに、皆、本当はあんな事を思っていたんだ……) 全然知らなかった。 大事な友達だと思っていたのに。 いきなり後ろから棒でなぐられたみたいなショックだった。 いきなりすぎて涙も出て来ない。 耳の奥でKさん達の笑い声が響いている。 イスに腰かけて両手で顔を覆った。 いつの間にか教室には誰もいなくなっている。 校舎の遠い所から聞こえてくる生徒や先生の声。
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