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いつまでも、こんなふうにしているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
帰ろうかと顔をあげると、すぐ目の前にE君が立っているのに気付いてHさんは軽くのけぞった。
側に寄って来る足音は全然聞こえなかった。
「……なにか、嫌な事でもあった?」
E君がじっとHさんを見つめながら話しかけてきた。
「う、ううん。何でもない……」
「そう──」
否定するHさんの事を、E君は見つめたままだ。
そんな空気に居心地が悪くなったHさんは、話を聞く気分でもないし『今日は帰るから』とE君に告げようとした。
「あのね、あたし、今日は……」
机の横にかけたバッグに視線を移しながら口を開いたHさんの言葉をさえぎるように、E君は前の席のイスを引いて腰をかけた。
「えっと……」
とまどうHさんを無視するように、E君は教室の窓から外に目をやったまましゃべり始める。
「ある所にね、1人の少年がいたんだ」
◇ ◇ ◇
ある所に、1人の少年がいた。
彼は生まれつき体が弱くて、思うように学校に通う事が出来なかった。
1年の半分以上は病院に入院して、院内学級に通うような生活をしていた。
4年生に進級してすぐに体調を崩し、ほとんど学校に行けないまま病室の窓から外を眺めて過す毎日。
日々の楽しみは、友人がお見舞いに来てくれる時に語って聞かせてくれる学校での出来事だった。
仲良くなるヒマもなく会えなくなってしまったクラスメイトの事、先生の事、参加できなかった行事の事。
聞かせてくれる話は入院している少年にとっては、どれも新鮮で楽しいものばかり。
検査や治療と同じ事の繰り返し、そんな退屈な入院生活の中で、友人が来てくれる事だけが少年の心の支えだった。
友人は病室へやってくると、少年のベッドに腰かけて一緒にテレビを観る事が多かった。
「この番組、好きなんだ」
そう教えてもらった少年は、友人が来ない時には1人でテレビを観て過すようになった。
きっと友人も家で同じ番組を観ている。
そう思うと、側にいなくてもつながっている気がしたから。
だがある日の夜、少年の容体が急変した。
息が苦しくて、意識が朦朧とする。
病院の先生や看護士さんがあわただしく病室に出入りし、隣のベッドとの間のカーテンが閉められた。
少年の口元には酸素マスクが当てられ、細い腕に注射の針が差し込まれる。
吸っても吸っても肺にまで酸素は届かず、どんどん呼吸が荒くなっていく。
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