テレビ

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吹き出して来た脂汗が目に入る。 (ああ、もうダメなのかな?) 少年は苦しい息の下で、そんな事を考えた。 (これで僕は死んじゃうのかな? もう友達に会えないの?) 少年はゼイゼイと必死で酸素を吸いながら、お見舞いに来てくれていた友人の事を思った。 友人がいる時じゃなくて良かった。こんな姿を見たら怖がるかもしれない。 そう思う反面、最期にもう1度だけ友人に会いたかったという思いが胸の中に広がった。 熱でかすむ目をテレビに向ける。 いつもベッドに腰かけて、同じ番組を観ながら笑っていた友人。 (会いたい……会いたいよ) 彼がそう強く望んだ時、ベッド脇のテレビに電源が入った。 誰もテレビに触れてはいない。 それどころか、テレビが点灯した事に少年以外の誰も気が付いていないようだった。 画面に映っているのは、その日の学校帰りらしい友人の姿。 今はもう日が暮れてしまっているから、数時間前の出来事なのだろう。 (ああ、もう会えないのかな……) もう1度、色んな話をしたかった。 友人の事を考えていたから、きっと神様が彼の姿を見せてくれたんだ。 少年がそんな事を思っていると、テレビの画面から音声が聞こえてきた。 『お前さ、今日は病院に行かなくていいのかよ?』 『あぁ? 病院? あ、見舞か。うん、今日は行かねー』 『ふぅん』 『第一さぁ、家が近いからとか言って、先生も勝手に押し付けないでほしいよな。迷惑だっつーの』 友人の声を聞いて喜んでいた少年の耳に、信じられない言葉が届いた。 『だってお前ら、仲いいんだろ?』 『んなわけねーだろ。ただ、前にクラスが一緒になった時に何回かしゃべって、家がわりと近所ってだけだよ。まあ、向こうは勝手に仲良しだと思ってるかもしれねーけどな』 『ひっでー』 あははは、と笑い合う友人の声に少年の心が冷えて行く。 自分は冷たい病院のベッドの上で苦しんでいるのに。 友人は元気で学校に行き、楽しそうに話をしている。 自分の事を笑っている。 『あ、それでも便利な事もあったぜ。病院って、ベッドごとにテレビがあるじゃん。うちじゃ妹がうるさくて、ゆっくり観られないからさ。あいつの見舞いに行くとテレビ独占できるしな』 『でも病室のテレビって有料だろ?』
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