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夕べの騒ぎを聞きつけた他の生徒から話を聞き、興味津津といったところなんだろう。
だけど、相田君の班の誰も詳しく事の次第を語ろうとはしなかった。
良く分からない。
それが本当のところだし、あえて語りたいような内容でもない。
林間学校の全行程が終了し、帰りのバスに乗り込んでからもそれは変わらなかった。
班の誰もが暗黙の了解で口にしなかったし、先生も何も言わなかった。
でももしかしたら、先生達は施設の職員から事情を聞いたのかもしれない。
相田君はそう思っていた。
バンガローに掃除に来た職員の、あの表情が物語っている。
あれは事情を知っている顔だ。
きっとこれまでにも、同じような出来事があったに違いない。
そっと斜め後ろに座っている宮本君の様子をうかがってみる。
宮本君は窓際の席で頬杖をつき、外を流れる景色を眺めていた。
視線を感じたのか、ふっと視線を相田君の方へ向け、慌ててうつむく。
彼のそんな態度に気を悪くした相田君は、意識して宮本君の方を見ようとはせず、学校へ辿り着くまで一言も話かけなかった。
そしてその気まずい関係のまま。
林間学校が終わって2週間。
7月も終わり、8月になってから気温がグングンと上り、その日もとんでもなく暑い日だった。
朝、目が覚めた時からじっとりと汗ばむ陽気に、相田君は何もする気にならずダラダラとテレビを観ていた。
だらけきった耳にインターフォンの甲高い音が響いた。
玄関で来客を迎えたお母さんが、リビングのソファに転がっている相田君に声をかける。
「宮本君が来てるわよ。何か話があるんですって」
なんだよ、このクソ暑い日に。
そう思いながら相田君は玄関に向かう。
ドアを開けると、真夏の強い日差しの中に宮本君が一人で立っている。
「よお、久しぶり。なんだよ?」
「今、ちょっといい?」
なんだか思いつめたような表情の宮本君に押し切られるように、相田君は家の中のお母さんに「ちょっと出てくる!」と怒鳴ってから靴を履きなおした。
二人で連れだって歩きながら、特に何を話すでもない。
途中の自販機で缶ジュースを買い、近所の公園で二人は誰もいないブランコに腰かけた。
しばらく無言でジュースを飲みながら公園を眺める。
「俺さ……」
ようやく宮本君が口を開いた。
「ん?」
ジュースに口をつけたまま、相田君は宮本君を見る。
「今度、引っ越すんだ」
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