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泣き出したりしたから、先生が気を悪くしちゃったのかな?
そんなおばさんの様子が気になったのか、T永さん、Y崎さん、N本さんの3人も心配そうに一緒に残ってくれた。
「いや、別に問題があるわけじゃないから。ただ、何があったのか聞きたいだけだよ」
先生と一緒にゆっくりと昇降口に向かって歩きながら、おばさんは自分が見たもの、聞いたものについて説明した。
おばさんがグラウンドで見た人影。
耳に届いた悲しげな声。
順番なんかどうでもよかった。
ただ思い出すままに口に出す。
そうする事で、さっきまで感じていた悲しみを吐き出しているような気がした。
「……そうか。N谷には見えちゃったんだな」
一通り説明を終えて深呼吸をした時、I 先生がちょっと申し訳なさそうな顔をして言った。
「怖がらせたみたいで、悪かったな」
視線を合わせて眼をのぞき込んでくる先生に、おばさんは思っている事を素直に話した。
「怖い……確かに最初は怖かったです。でも、なんて言うか……。怖いっていうのはあるんだけど、そういうのだけじゃなくて。どう言ったらいいんだろう……。悲しい、寂しいって言うのが合うのかな?」
うまく説明できない。
言葉にしたら、その瞬間から違うものになってしまいそうで。
それでも、T先生はおばさんのつたない説明で彼女の言いたいことを理解してくれたようだ。
優しくおばさんの頭に手を乗せて、視線を合わせて話をしてくれた。
「戦争って言われても、お前達が生まれる前の事だから実感がわかないのも無理はないけどな。でも、そういう悲しい歴史があったってことを忘れないようにしないといけない。起ってしまった事に対して、お前達が出来ることはないけど。それでも忘れないで、同じ事を繰り返さないように、新しい時代を作っていくのがお前達の出来ることだと思わんか?」
その当時は難しい事は解らなかったけど。それでも先生の言葉を覚えておこうと、おばさんは思ったのだと言う。
いつか大人になって、先生の言葉の意味が分かった時にそれを実行できるように。
「さあ、教室へ戻ろう。みんなが待ってるぞ」
先生はポンポンとおばさんの頭を軽くたたいて、笑いかけてくれた。
おばさんは「はい」とうなづくと、真剣な顔をして一緒に話を聞いてくれた友達へ向かって足を踏み出した。
だけどすぐに足を止めると、ちょっとの間だけグラウンドを振り返った。
いつも皆で遊ぶグラウンド。
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