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かえって、周囲の闇の濃さが増すように思えた。
図書館の窓からプールが見えないように植えられた目隠し用の植木が、風でざわざわ鳴ってたのを覚えているという。
おばさんはT永さんとY崎さんにぴったりくっついて、夜の闇の向こうにあるジャングルジムを必死になって見透かそうとしていた。
暗いし、怖いし、風は生暖かいし、早く終わりにしたくて4人で急ぎ足で進んでいく。
電灯も近所の民家の明かりもない、講堂と図書館の入口付近を通り過ぎた時、おばさんの耳にかすかな音が届いた。
きっと風でゆれた木の音だ。
そう思いながらも確認せずにはいられない。
「どうしたの?」
急に後ろを振り返って立ち止まってしまったおばさんを不思議に思って、友達が声をかけてきた。
「うん、今、何か聞こえたような気がして」
答えるおばさんにY崎さんが泣きそうな声で抗議する。
「やめてよー! 怖い事言わないで!」
いつもは強気で男の子っぽいY崎さんが本気で怖がっているのを見て、おばさんはそれ以上何も言えずに、ただ「気のせいだったみたい、ごめんね」とだけ口にした。
N本さんが懐中電灯を握り直し「早く終わらせちゃお」と言ってくれたのをきっかけに、4人は目的地のジャングルジムを目指して歩き出した。
講堂の前を過ぎ、グラウンドに足を踏み入れる。
朝のマラソンで、体育の授業で、クラブで、休み時間に、運動会に。
授業が終わってから二重跳びの練習をしたこともある。
生徒にとってはお馴染みの場所であるグラウンドも、夜になればその表情を変える。
自分達の前に出発したグループの持つ懐中電灯の光が、学習の森付近でゆれている。
「走っちゃダメって言われたのにね」
「やっぱり怖いもん。走っちゃうよ」
「あたし達も走る?」
「その前にタオル巻いてこなくっちゃ」
怖いという感情は人間をおしゃべりにさせる効果があるようだ。
I先生の話に出てきた『積み重なった遺体が見えた』というバレーコートの前を横切れば、ジャングルジムは目の前だ。
タオルを巻いてしまえば、後は走ってしまっても大丈夫だろう。
そう思った矢先、おばさんの耳にまた音が聞こえた。
ズッ、ズズッ……と何かを引きずるような音。
今度はほかの友達にも聞こえたようだ。
「何? なんの音?」
「誰かいるの?」
「お母さん達が脅かそうとしてるんじゃなないの?」
「やめてよ、もう……」
みんな辺りをキョロキョロと見回し、涙声でつぶやく。
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