夜の学校の肝試し

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きっとみんなの頭の中では先生に聞いた『学校の七不思議』の事が浮かんでいるはずだった。 もちろん、おばさんの頭の中でも。 音は移動している。 そしていくつもあった。 ズッ……ズズズッ……ズズッ……。 ズズズッ……ズッ……ズズッ……。 近くで、遠くで音がする。 「は、早く戻ろう」 「そうだね」 震える手でジャングルジムにタオルを巻こうとするが、あせっているためかうまくいかない。 タオルを握っているT永さんに、グループのみんなが声をかけた。 「早く早く!」 「ねえ、まだ?」 「ちょっと待ってよ! 分かってるから急かさないで!」 みんなもう必死だ。 T永さんの手元を見たり、グラウンドの方を見たりするので、N本さんが持つ懐中電灯の明かりがガクガク揺れる。 「よく見えないよ。もっとちゃんと照らして」 フラフラする明かりにイラついたのか、T永さんが顔をあげてN本さんに抗議する。 「ああ、ごめん」 そう言ってN本さんが懐中電灯を持ち直した時、おばさんは闇の中にある「モノ」を見た。 すり切れてボロボロになったズボンに泥だらけの長靴、細い布が巻き付けられた足。 汚れた帽子を目深にかぶって、重たそうなリュックを背負った。 疲れきって足を引きずりながらユラユラと歩く人影。 それがおばさんたちのすぐ側を通っていったのだ。 ちょうど息を吐ききったところだったおばさんは、幸いにも悲鳴をあげずに済んだ。 一刻も早くその場を離れたかったが、友達を残して自分だけ走り出すわけにもいかない。 おばさんはグラウンド中を歩き回る足を思い浮かべて、全身が震え出すのを止められなかった。 「出来た!」 ジャングルジムにタオルを巻いていたT永さんが叫んだ。 ようやくタオルを巻く事が出来たようだ。 「行こう! 走って!」 誰が叫んだのか分からない。 でもそれは、その場にいる全員の気持ちだった。 4人が一斉に走り出す。 運動神経に自信のないおばさんはみんなにどんどん追い抜かれていき、1番最後を走っていた。 友達に置いていかれまいと必死で足を動かすおばさんの耳に、自分の呼吸音とは違う音が聞こえた。 『……くない……』 『……かえ……い』 かすかに耳に届く言葉。 グラウンドを斜めに突っ走りながら、おばさんはその言葉を聞き取ろうと精一杯耳を済ませた。 『……死にたく……ない……』 『帰り……たい……』
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