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二年の夏休み明け。 月が変わり、ようやく太陽の日差しも落ち着きだし、蝉の鳴き声が消え始めた九月上旬。 部活にも所属せず、かと言って一緒に遊ぶほどの仲の良い親友もいない僕は、内気な少年らしく教室で明日の予習に勤しんでいた。 さして勉強に力を入れているわけでもないこの学校に、放課後遅くまで残る生徒は決して多くなく、下校時間間際になる頃には教室には僕しか残っていなかった。 でも僕はそれが目的で。 この広い教室に一人でいるという妙な感覚が好きだった。 遠くから叫んでいる運動部の掛け声。 ブラバンの管楽器が放つメロディー。 体育館の床を跳ねるボールの音。 かすかに聞こえくるその音が好きだった。 シャーペンがノートの上を滑る、この音も嫌いじゃない。 限りなく静寂に近くて、完全ではないこの静寂が、僕の心を落ち着かせてくれるのだ。 空が群青色に染まり始め、完全下校まで残り五分となったところで、僕は帰りの支度を始めた。 電気を消し、教室から出たそのとき。 何かがぶつかった。 それなりのスピードで、胸のあたりにずっしりと鈍い感覚を覚える。 同時に目の前でノートとプリントが中を舞った。
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