仮面のたくらみ

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 龍之介に社交ダンス部の催しに行こうと誘われたときには、学園祭で楽しむような場所ではないと、もともとは乗り気ではなかったのだ。  受付にいた社交ダンス用のドレスを着た女子部員が派手な仮面を付け、 「一緒に踊りませんか」 「恥ずかしくないですよ」 と、通りかかる人たちに声をかけていたのを見ても、 「いや、無理」と思った。  だが、龍之介は参加する気満々だった。 「まぁ、いいじゃん。女子と踊れるんだから」  受付に声をかけると「300円です」といわれた。  金取るのかよと、のけぞったが龍之介は俺の分まで支払って早々に仮面を受け取った。  紫色の毛むくじゃらな仮面が顔半分を覆った。 「覆面レスラーじゃねぇか」  体躯のいい龍之介を見て笑い転げたが、俺が渡されたのは左頬が欠けたような白いのっぺりとした仮面だった。 「オペラ座の怪人かよ」  と、龍之介に言われてまんざらでもなかった。  いや、オペラ座の怪人がどんな物語かも知らないのだけど。 「それではどうぞ」  受付の女子部員は入り口の戸に手をかけたが、一瞬何かを考え込んだようにして振り返った。 「くれぐれも――」  こもった低い声で仮面越しにのぞき込む。 「変な気を起こさないでくださいね。もしものことがあれば、その仮面をはがされて、さらし者にされちゃいますからね」  最後は笑って冗談にしていたが、俺と龍之介はなんとなく顔を見合わせた。  もっとも、ここにいる誰の表情もわからなかったが。 「どうぞー」  教室の戸が開きはなたれ、異様な空間が目に飛び込んできた。  仮面と制服という奇妙な取り合わせで男子と女子がダンスを踊っている。  さながら仮面舞踏会といったところか。  実際、かかっている曲も「仮面舞踏会」といったような気がする。  有名なフィギュアスケーターも使っていたワルツだ。  俺は龍之介に背中を押され、薄暗い教室の中に入った。  思ったよりも人がいる。  机もいすも片付けられていて、いつもの教室よりもずっと広く見えた。
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