仮面のたくらみ

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 バタンと教室の戸を閉める音が聞こえた。  振り返ると龍之介はすでにいなかった。 「なんだよ。ひとりで先に行くなんて」  俺は案外と怖じ気づいていた。  俺と踊らない?と、声をかければいいのか?  立ち尽くしていると音楽の調子が変わって、男女のペアの入れ替えが起こっていた。  合コンで席順を変えるようなものかもしれない。  タイミングなら今だと思っていたら、俺の前に小柄な女子が現れた。  アゲハチョウのような仮面を付けている。 「踊ろうよ」 「え? あ、うん」  彼女は俺の手を取って、もう片方の手を腰に回した。  腰に触るぐらいならありなのかな。  俺はちらりと隣の男の様子を見て同じように腰に手を回した。 「キャー!」  突然、アゲハチョウの女子は悲鳴を上げて俺を突き飛ばした。 「なんだよ」  周りのやつらも何事かと俺たちの方を見ている。 「今、さわったでしょ」 「さわったっていうか」 「おしり、さわったじゃない」 「いや、誤解だって」  いつの間にか音楽も止まって、ダンスを中断した面々が俺の方を向いていた。  すると、そばにいたヤツが俺の仮面をはぎ取った。  俺は一人素顔となって、誰が誰なのかもわからない仮面の集まりの中でさらし者になった。 「俺はなにもしてない!」  アゲハチョウの仮面をはがしてやろうと、悲鳴を上げた女子に飛びかかった。  仮面をつかむも、仮面が外れない。  俺はそばにいた男子に羽交い締めにされた。 「なにすんだよ」  もがいてその男子のピエロみたいな仮面をもぎ取ろうとしたが、やはり取れない。 「この仮面は不届きなヤツしかはがれないんだよ」 「そんなわけないだろ。俺はなにもやってない!」
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