第1章

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「ウソぉちゃいますよぉ。春(しゅん)」  かつてないほどの絶叫に近い叫びを出したあと、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、そこには日本酒を持った俺の祖母がいた。 「ば、ばあちゃん! ま、マジで?」  俺はぎこちなく問うと、ばあちゃんは軽く溜め息を吐いてくるりと宙返りをすると、一瞬でキツネになった。  茫然とする俺にばあちゃんは呆れた表情で答えた。 「これでうちがキツネちゅうことが、分かりはりましたか? 春? というか、キツネやということ教えはりましたのに、忘れるなんてばあちゃんは悲しいぃわぁ」 「いや、初耳なんだけど!? 一度も教えられてないよ!?」 「いいんや。教えましたよぉ。生後三か月の頃ぉに」  覚えてるかあぁぁああぁ! 「赤ん坊が覚えてるとでも!? ていうか、よく理解できると思ったね!? ふつう記憶にないからね!?」 「そ、そういうもんなんどすかぁ!? その頃はぎょうさん妖(あやかし)が来て張って春(しゅん)はたくさん遊んでもろうってたから、見えてはるし、てっきり覚えていはると思ってましたわぁ。うちが陰陽師の家系っていうところも覚えてないんどすなぁ? うぅ、失敗やったなぁ。小学校ぐらいの時に話した方がええかったんかぁ」 「そうだね! そんくらいの時に話してくれた方が心の傷が浅かったよ!! ってええ!! 陰陽師の家系!? しかも妖怪にあやされてたって!? ちょっと、脳が計量オーバー起こしてんだけど!! 十六年間普通の人間だと思ってたのにショックだわ!」
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