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それまで黙っていた千が突然言った。
「住むところが無いなら、うちの部に来る?」
「へぇ?」
思わぬ誘いに人魚は間の抜けた声を発した。
「ちょうど、ここに金魚鉢があるわ。貴女、金魚に化けられる?」
「は、はい。化けられます!」
人魚がそういうと千は金魚鉢に水を入れて人魚に入るように促した。人魚は勢いよく金魚鉢に飛び込んだ。
ドッポン――。
人魚が飛び込んだお蔭で生まれた激しい水しぶきの中から赤い金魚が姿を現わした。
「どうやら成功ね」
「あ、ありがとうございます!」
金魚になった彼女は慌てて千に礼を述べた。すると、千は目をきらりと光らせて堂々と言い放った。
「よし、これで非常食は確保したわ!」
「部員じゃねえのかよ!」
「部で飼うんなら、名前を決めなきゃだね~。何にする~?」
「一番、人魚に親身になってた奴が飼うとか言うなよ!!」
「ロドリゲスはどうだ?」
「乗るのかよ! てか、その怪獣みたいな名前はなんだよ!? 無難に小紅(こあか)でいいだろ!」
「そういう坊主も名づけにノリノリやで!」
「ていうか、名前になんも捻りもないわね。もっとましなものはなかったの? たとえば、ノロイとか」
「お前のほうが無いわ! 捻りもない俺のほうが一番無難だわ!」
人魚の名を決めるのに騒ぎつつ、人魚の名前が俺の『小紅(こあか)』という 名前に決まって、ようやくこの場は収まった。
こうして我が部に新たな部員、人魚の小紅が加わり、うちの部でゆうゆうと泳ぐ姿が見られることになる。
トリプル災害を止める使命に加え、その暴走によって小紅を守るという使命を新たに誓う羽目になった。
ますます、胃薬が手放せない状況に陥る日常が始まってしまったのである。
――解せぬ。
完
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