廃線のトンネル

2/7
前へ
/7ページ
次へ
ケンは今、海岸沿いの国道近くにある、古びたトンネル跡に来ている。 明治期に作られたそのトンネルはレンガ造りの佇まいで、歴史を感じられる。 ケンが物心ついた時には、もうこのトンネルは厳重にセメントで塗りこめられて塞がれていた。何せ古いトンネルなので、落下事故があってはならないとのことで、侵入できないように塞がれてしまったとのことだ。 今や車社会となり、田舎のローカル線など、赤字続き、ついには廃線の運命を辿ったのだ。線路は取り払われ、時代の名残のこの入り口のみが出口を失い寂しく佇んでいる。  最近、ケンの周りでまことしやかに都市伝説のような話が流行っていた。 「あのトンネルの前で夜中の2時29分に立っているとトンネルが開き、死者に会える」という噂だった。そんな話は誰かの作り話だと馬鹿にするのがせいぜいで、本気になんて誰もしない。人はこういう話が好きなのだ。心の中ではそう思っていても、ケンは試さずにはいられなかった。  ケンは1年前に親友を失った。名前はヤマモトヒロシ。ヒロシは、どこにでも居るような平凡な男の子だった。背が高いわけでもなく、大人びているわけでもなく、勉強がずば抜けてできるわけでもなく、運動神経もそこそこ。本当に普通の小学生で目立つ子供ではなかった。 だけどケンはヒロシと居ると、心が安らいだ。気をつかう必要もなく、空気のような存在だったけど、なくてはならない親友だったはずなのだ。  ところが、あの日、ケンはヒロシを裏切ってしまった。 クラスに一人は、裕福で何一つ苦労せずとも与えられて恵まれた家庭で育っている子供は居るものだ。それがカイトだった。あの日、カイトに家に来ないかと誘われたのだ。その日はヒロシと海に釣りに行く予定だった。カイトから新作ゲームを買ったのでいっしょにやらないか、と誘われたのだ。その新作ゲームは、ケンが前々から欲しかったゲームで、ケンの家ではとても買ってもらえるような金額ではなかった。 だいいちそのゲームをやるゲーム機自体がケンの家には無い。しかも、カイトの家に遊びに行くと、いつもおばさんがケーキを焼いてくれる。この前遊びに行った時にはアップルパイだった。ケンは悩んだ。カイト自身は、やはり金持ちぜんとした鼻持ちならない子供だが、お菓子やゲームは魅力がある。 
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加