廃線のトンネル

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ケンにはもう一つ、カイトの家に行きたい理由があった。小学5年ともなれば色気づく年頃だ。ケンはカイトの姉が好きだった。カイトの姉はレイナといい、中学1年生。可憐なセーラー服姿と、優しげな笑顔に一目惚れした。いつもケンを見ると「ケンちゃん、今帰り?」と微笑んで声をかけてくれる。そのたびにケンはドキドキした。「今日、姉ちゃん、テスト週間だから。居るぞ?」カイトは見透かしたように、ニヤニヤ笑いを隠さなかった。別に、と言いながらも、ケンは心臓が跳ね上がった。 「ヒロシには、明日謝っておけばいいか」 それがケンの出した、その日の結論だった。ケンは欲に負け、ヒロシとの約束をすっぽかしたのだ。しかし実際は、ヒロシを裏切った後悔から、心底ゲームは楽しめなかったし、レイナもテスト週間も大詰めということで、部屋に篭ったままだったので会うこともできなかった。 その日ヒロシは行方不明になった。夕方になって、ヒロシのお母さんから電話がかかってきて、ヒロシを知らないかとたずねられた。自分が約束を破ったことを告げず、もしかしたら海に釣りに行ったのではないかととぼけた。ケンに何とも言えない罪悪感が襲ってきた。ヒロシの両親は海に探しに行ったが、ヒロシは見つからなかった。ヒロシの行った痕跡すら見つからずに、とうとうその日の夜、捜索願を出した。 近所総出でヒロシを探した。警察も、自治会の人たちも、学校の先生も、みんなでヒロシを探したが、見つからなかった。あくる日には、テレビで写真入りで公開捜査に踏み切ったが、ヒロシの行方はまったくわからなかった。  ケンは死ぬほど後悔した。自分が一緒に行動していれば。カイトの誘いなんかに乗らなければ。ヒロシは居なくならなかったかもしれない。誰にも言えない張り裂けそうな気持ちを1年間ずっと抱えてきたのだ。  いったいヒロシはどこに行ったのだろう。生きているのだろうか? もしも生きていなかったら。ケンはそう思うたびに腹の底が冷えてきりきりと痛んだ。
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