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そして、あのトンネルの噂を聞いたのだ。もし、ヒロシが死んでいるのなら。会えるのかもしれない。ケンはどうしても、ヒロシに謝らなければならないと思ったのだ。こっそり家を抜け出して、ここまで歩いてきた。街頭もなく真っ暗な中、懐中電灯の灯りだけを頼りに、ここまで来た。ケンは塞がれたトンネルを懐中電灯で嘗め回すように照らした。しかし、そこには何も無かった。無機質な灰色のセメントを古い錆付いたようなレンガが縁取るだけ。その時、誰かが後ろから近づいてきた。気配を感じ、びっくりして振り向くと、そこには長身の黒髪の外国人の男が立っていた。「わあっ」思わずケンは叫んだ。
その外国人は胸にカタカナで「トマソン」と縦書きに書いているTシャツを着ていた。あまりの間抜けな格好に怖いというより、唖然とした。ケンが叫び声をあげたにも関わらず、まるで気づかないかのように通り過ぎ、トンネルの方に歩いて行った。そっちに行っても行き止まり、そう思った矢先、その外国人の体はすぅっとあのトンネルに吸い込まれて行った。ケンは目を疑った。嘘だろう?ケンは外国人の後を追った。相変わらずトンネルはセメントで塞がれていてとても今人が入って行ったとは思えない。ケンは恐る恐る、手を伸ばしてトンネルの入り口に触れてみた。すると、手がすぅっと中に吸い込まれて行った。
ケンが怖くなり、慌てて手を引っ込めようとすると、足元がふらつき、ぐっと中に体が全部吸い込まれてしまったのだ。
「うわっ。」
ケンは叫んで、転んで膝をついてしまった。ふと、顔を上げると、そこには見慣れた風景があった。
「ここは・・・。」
ケンとヒロシがよく遊んだ公園だった。こんなところに繋がっていたなんて。公園のとなりには、ボロっちいアパートがあって、そのゴミ捨て場からは、いつも嫌なにおいがしていた。
そのゴミ捨て場のすぐ隣には、壊れた自動販売機があって、ガラスなど割れていて、たぶん自動販売機の中には何も入っていない。お金の投入口は一応ガムテープで塞がれたあとがあって、長い間風雨にさらされて、ガムテープが劣化してハタハタと風になびいている。
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