8人が本棚に入れています
本棚に追加
「このろくでなし!」
ボロアパートから女の人の金切り声と、物が割れる音がして、ケンはびっくりしてそちらのほうを見た。どうやら女の人と男の人が言い争っているようだ。
「昼間から酒ばっかり飲みやがって!いつ働くのよ!」
「仕方ねえだろうが!仕事がねえんだからよ!」
「探しもしないくせに、よく言うよ。このヒモ野郎!クズ!アンタみたいなやつは燃えるゴミに出してやるからね!」
「やれるもんならやってみろ!」
夫婦喧嘩はしばらく続き、大きな音と共に急に水を打ったように静かになった。喧嘩、終わったのか。ケンがそう思っていると、ドアが乱暴にバタンと開き、カンカンと金属の階段を下りてくる足音がした。驚くほど太ったおばさんが、両手に重そうなゴミ袋を二提げ持って降りてきた。ケンはその袋の中から不自然に飛び出した物を見て驚いて腰を抜かしてしまった。片方からは人間の足、もう片方の袋からは人間の手が出ていたのだ。そしてそのおばさんは、ゴミ置き場のペールの蓋を開けると、乱暴にそのゴミ袋を投げこんだ。
ケンにまったく気付かないようで、ぎゅうぎゅうと中身を押し込んで蓋をし、パンパンと2回手を鳴らして、すっきりした表情でアパートに帰って行った。ケンは恐る恐る立ち上がると、そのペールには「人間のクズ入れ」と書いてあった。ケンは恐ろしくなり、今来た道を引き返そうとした。
「ガコン」と言う音がして、その方向を見ると先程の「トマソン」というTシャツを着た外国人の男が、あの何も入っていないはずの自動販売機でジュースを買っていた。「ぱしゅっ」という音を立ててプルタブを引くと、その男は口に持って行き、口に注ぎ込んだ。こちらをじっと見ている。あの男にはケンが見えているようだ。
さっきは無視したくせに。ジュースの缶からは真っ赤な液体。飲むというよりは、コントのように口の横からダラダラとだらしなく流れている。口からゴボゴボと吹き出し、その液体は耳や目、鼻からもゴボゴボと噴出している。ケンは驚いて叫んだ。そして闇雲に走って逃げた。めちゃくちゃに走ったので、どこをどう走ったのかはわからないけど、いつの間にかケンは、池のほとりに着いていた。
「ここって・・・。」
最初のコメントを投稿しよう!