廃線のトンネル

6/7
前へ
/7ページ
次へ
ー内緒だぜ。ここ、ブルーギルがたくさん釣れるんだ。ー ヒロシがこっそり教えてくれた。 あの場所だ。そして、視線の先にヒロシが池に釣り糸を垂らして、こちらをびっくりしたような表情で見ていた。 本当に会えた! ケンは嬉しくて、ヒロシのほうに駆け寄った。 「お前、なんでこんなところに居るんだよ。」 ヒロシの声だ。 「ヒロシ、ごめん。俺、俺・・・・。」 ケンは泣いて言葉にならなかった。 「何泣いてんだよ、お前。」 「俺が、俺が、約束をすっぽかさなければ。」 きっとこのヒロシは生きた人ではない。 でも、ずっと謝りたかった。 「海で釣ろうと思ったけど、気が変わったんだ。お前、来ねえし。」 ヒロシが口を尖らせた。 「ご、ごめん、ごめんよ。ヒロシ・・・。」 すると、ヒロシはこちらをきっと睨んで言った。 「足が滑って落ちたのは俺のせいだ。別にお前のせいじゃねえ。 だけど、裏切りを許すほど俺は心が広くねえんだよ。 もう二度とここへは来んなよな。お前の顔なんか二度と見たくない。」 そう言うとヒロシはプイっとそっぽを向き、竿をさっさとしまい、森の奥に消えてしまった。全てを許されるわけないなんてこと、わかりきっていたはずなのに。 それでも、ケンは悲しかった。 すぅっと首筋のあたりに気配を感じ、ケンが振り向くと「トマソン」が立っていた。先ほど飲んでいた、ワケのわからない赤い液体が目や鼻、耳からだらだらとまだ滴っていた。 「うわあああああああ!」 ケンは無我夢中で走って逃げた。その後を「トマソン」が赤い舌をベロベロと出しながら追いかけてきた。何で追いかけてくんだよぉぉぉぉ! 「はっ!」 ケンはそこで目が覚めた。 そこはケンの部屋だった。 え?確か、トンネルに行って・・・。 しかし、確かにそこはケンのベッドの上だった。 なんて長い夢なんだろう。 夢というには、あまりにリアルすぎる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加