対決

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「航空自衛隊のショーでラーメンの屋台で相席になった時に知り合ったんです。政治とか全然分かんないけど、すごく……その、何て言うか……キラキラしてたんです。日本を変えたい、この世界を変えたいって。だから協力してほしいって言われた時、はいって言っちゃったんです」 「そんな事情があったのですか……」  杉元が頷く。松樹は黙ったまま二人のやりとりに耳を傾けている。 「はい……」顔を上げたあやの目は赤く腫れていた。「好きになっちゃったんです。もう、逆らえなくて……だから、私にできることなら何でもって言ったんです」 「それで計画を立てるところから手伝った、ということですね?」  あやはハンカチで涙を拭いながら頷いた。 「悪いことだって分かってたんです。途中で引き返そうとしたけど……黒田さんたちから、今さら抜けるなんて虫のいいことを言うなって……」  高校生ぐらいだったら誰だってそんな時期がある。実際に自分もそうだった、と杉元は頷いた。  父の背中を見て警察官になったからだ。  夢を叶えた人は必ずと言っていいほど、中高生の時に、その夢に繋がる強烈なインパクトを持った誰かと出会っている。  二十代前半の若者が日本を変えると息巻いているその姿は、大人たちから見たら青臭い若造が何か喚いている程度の認識で終わったのだろうが、彼らを見上げるティーンエイジャーには夢と希望に向かって突き進む英雄に思えたのではないか。  少なくとも、あやはそうだったのだろう。 「このお金はどうするつもりだったのですか?」  頭のいい彼女は、やはり被害者だった。その糸目を優しく細めて、杉元が尋ねる。 「必要最低限だけ使って、後は残しておくって言ってたんです。もし逮捕されたら、これで弁護士を雇ってくれって。あの人たちを助けたかったんです」 「なるほど……」  それなら辻褄が合う。二十代前半の若い男が、掲げる野望のために十代の少女を籠絡し、意のままに操ったのだ。  彼女は憧れと恋心の入り混じった感情を捨て切れず、黒田の求めるものを全て提供した。彼の心を掴みたくて、半ば積極的に協力したのだろう。だからこそ、自分自身を使った誘拐や盗聴器の設置、五千万の強奪なども提案したに違いない。 「あやちゃん……」同情するように眉を下げた松樹が呟いた。「またまた不正解」 「え……」  あやと杉元が驚く。
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