隠されていた事件

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「メディアはそう報道しておりました。ですが、素手だったのは一人だけで、三人は鉄パイプとハンマー、僕が威嚇射撃した相手はアーミーナイフを持っていたのです」 「だったらやっぱり正当防衛だったじゃないの」 「ですが、目撃者という少年が名乗り出て、彼らは丸腰だったと証言したのです。その後の捜査で、その少年もグループの一員で奇襲に参加する予定だったことが分かりました。しかしながら……その頃にはもう手遅れだったのです。僕は暴力巡査の汚名をそそぐタイミングを失っておりました」  あの時のことを思い出すと、未だに怒りと悲しみの入り混じった寂しさのような感情が渦巻いて、夜も眠れなくなることがある――杉元はテーブルの上で拳を作り、俯いた。  マスコミは交番を襲撃した少年を時代の被害者に、杉元を国家権力のイヌと仕立てた構図を作り、コメンテーターを使って政権批判をさせていた。  そんなニュースは一人歩きをしていく。メディアの書くセンセーショナルなタイトルと記事が、ネットに配信され、それをマイクロブログやSNSのユーザーたちが面白おかしいコメントをつけてさらに拡散させていくのだ。  暴力巡査と書かれた自分の顔写真が掲示板に投稿され、死ね、くたばれという言葉とともに何回も引用されていくのを見て、杉元は何度も悔し涙を流した。  何よりも辛かったのは、マスコミからの取材攻勢だった。  記者だという若い男が家の中に侵入しようとして騒いだり、テレビのリポーターは近所の住人に杉元が危険な男だったと印象操作するような質問をぶつけたり。警察を監視するという市民団体が拡声器を使って名指しで非難してきたり。  祖父の代から付き合いのあった隣人でさえも、落ち着くまでしばらくよそにいるからと、引越し代と迷惑料を請求してくる有り様だった。 「あー……あの監察医務院で会った時、私がジャーナリストだって言った時すんごい警戒したのは、そのせいだったってこと?」  三杯目を半分ほど飲んだ松樹の問いに、杉元は二つ目の唐揚げを頬張りながら頷いた。 「もう、ジャーナリストという人たちには不信感しかありませんでした。事件の真相を報じることなく、過激で世間受けしそうな部分だけを繰り返し報道して……嫌がる僕を見た三國は、記者を見つけては罵るようになってしまったのです」
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