隠されていた事件

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 片親で育った杉元と、両親が健在な松樹。小学校のころから献立の材料と調理方法について質問するような食いしん坊に育った松樹とは対照的に、杉元はコンビニ弁当とファミレスで食事をしては、学校と塾を往復していた。  高校の修学旅行は北海道でカニとジンギスカンを死ぬほど食べた松樹に対し、鹿児島でロケットの打ち上げを見て興奮していた杉元。  祖父や父のようになりたいと警察官を目指した杉元とは正反対に、親のように会社員にはなりたくないと趣味を仕事にして食べていこうと独り立ちした松樹。  性格も何もかも真逆だったが、それが良かった。  お互いに知らない世界の住人がする話は興味深く、単純に楽しめるとともに、そんな環境でしか分かり得ない感覚や物の見方には、時に考えさせられることもあったからだ。  松樹も心を許し始めたのだろうか。一つの事実が明らかになった。 「それにしても……どうしてそこまでこの事件に拘るのですか? 他にも仕事があると聞いたような気もしますが……」 「あんたも言ったでしょ? ブレイクスルーになるって」杉元の問いに、松樹は苦笑いしながら七杯目の日本酒をあおった。さすがにほんのりと顔が赤くなっている。「ま、あんただから言っちゃうけどさ。そんなに稼げてないのよ。ってか全然。一ヶ月で十万超えることなんてまずないわけ」 「けっこう稼いでいそうに聞こえていましたが……実際は厳しかったのですね」 「そうよ。ブログのアフィリエイトがだいたい五万ぐらい。その他に記事とかテレビ取材の助手みたいなことをして、やっと三、四万とか。残りは知り合いのお店でバイトしたりとかそんなので、食べてくのがやっとなのよ。来週だって、私主催のネタ食事会が一つあるだけだし」  その告白で杉元は気づいた。 「もしかして、キャリーバッグ生活なのは……」  松樹は頷いた。 「あんたの思った通りよ。ネットで稼ぐなんてダメだって親から猛反対されて家を出ちゃったけど……そんな稼ぎしかないから、とてもじゃないけど家賃なんて払えないでしょ? だから転々とせざるを得なかったわけ。それでも私はこの仕事で生きてくって決めたの。だから、どうにかして名前を上げたくて……だから、今回の事件がその大きなチャンスになると思ったのよ。ううん。チャンスにするの。何が何でも」
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