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これが夢の代償というものなのだろう。杉元にはそれが痛いほど分かった。自分も刑事になるという夢を抱いて、その夢に向かっていたはずが――いつの間にか夢から覚め、それでも夢を見ようとしてさらに眠れない体になってしまったのだ。
「松樹さん」
「何?」
「飲みましょう。今日は。とことん」
真面目な顔のままグラスを一気に空けた杉元を見て、松樹がくすりと笑う。
注文した酒を酌み交わし、また話し始めた。グラスを五つほど空けた頃には、杉元も目の前で顔を真っ赤にして笑っているフードジャーナリストの考え方や行動力に尊敬の念を抱いていた。
事は何一つ解決していない。いや、まだその渦中にいるのだ。
しかし――今だけは楽しもうと杉元は思った。酔って嫌なことを忘れ、松樹との話に興じて、頭の中を楽しいことだけで満たして眠りたい。
「女将さん。すいませんが、もう一杯いただけますか?」
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