81人が本棚に入れています
本棚に追加
「たかが五時間では消えませんよ。それに何より……僕は女性に興味がないので、女の人とそういう行為に及ぶことは絶対にないのです」
すると、松樹があーと声を上げて手を叩いた。
「やっぱりそうだったんだ。三國さんが彼氏なんでしょ? そっかー。おかしいって思ってたのよね。あんなに酔っ払ってここに連れ込んだのに、私に指一本触れてこないなんてさ」
既成事実を作ろうとしていたとは、どこまでも抜け目のない人だ。
杉元は自分の話を信じているらしい松樹を見て笑った。
「ははは。嘘ですよ」
「は……はあ?」
「ですから、僕はノーマルなのです」
松樹が目を丸くする。
「どゆこと? だってすんごく仲いいじゃない。目と目で通じ合っちゃってさ。若干気持ち悪いぐらいに」
「それはそうですよ。三國と僕とは中学校からの付き合いで、当時は全盛期だった父に喧嘩を売ったことが縁で見込まれて、今では兄弟同然の仲なのですから」
「やんちゃしてたって、そういうことだったのね」しかし、松樹は疑いの目を止めない。「だったらおかしいじゃない。一緒にお風呂入って、髪の毛洗うのだって手伝ってもらって。なのに一人で寝ちゃってさ。何? こんなチビは相手にしてらんないってこと? チビ好きな人多いのに」
「そうではありませんが、間違いなく松樹さんとはできないのです」
「だったら何よ」
杉元は松樹の目をじっと見つめた。
「笑いませんか?」
「笑わないわよ。私だって大概おかしい性格してるから」
一応は自覚しているらしい。そういう問題ではないのだと、杉元は意を決して口を開いた。
「……僕はいちご大福なのです」
その言葉を聞いて、松樹が一瞬考えこむ。
「ボクハイチゴダイフク? 何それ、呪文? まさかここまできてロボットでしたとか言い出さないでしょうね」
「いやいや。僕はれっきとした有機生命体です。そうではなくて……僕が性の相手として欲情できる――興奮できる対象が、いちご大福という話なのです」
理解できないと言いたげに松樹が首を傾げる。
「……おかしな話ですし、どうしようもないと思っていた時期もありましたが……今の僕は、リアルの女性ではなく、いちご大福にしか興奮しない体質なのです」ぽかんとしている松樹。「すいません。実は……昨日のことは全部覚えております。記憶はなくさないタチなので」
「え、嘘……」
最初のコメントを投稿しよう!