強奪

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「たかが五時間では消えませんよ。それに何より……僕は女性に興味がないので、女の人とそういう行為に及ぶことは絶対にないのです」  すると、松樹があーと声を上げて手を叩いた。 「やっぱりそうだったんだ。三國さんが彼氏なんでしょ? そっかー。おかしいって思ってたのよね。あんなに酔っ払ってここに連れ込んだのに、私に指一本触れてこないなんてさ」  既成事実を作ろうとしていたとは、どこまでも抜け目のない人だ。  杉元は自分の話を信じているらしい松樹を見て笑った。 「ははは。嘘ですよ」 「は……はあ?」 「ですから、僕はノーマルなのです」  松樹が目を丸くする。 「どゆこと? だってすんごく仲いいじゃない。目と目で通じ合っちゃってさ。若干気持ち悪いぐらいに」 「それはそうですよ。三國と僕とは中学校からの付き合いで、当時は全盛期だった父に喧嘩を売ったことが縁で見込まれて、今では兄弟同然の仲なのですから」 「やんちゃしてたって、そういうことだったのね」しかし、松樹は疑いの目を止めない。「だったらおかしいじゃない。一緒にお風呂入って、髪の毛洗うのだって手伝ってもらって。なのに一人で寝ちゃってさ。何? こんなチビは相手にしてらんないってこと? チビ好きな人多いのに」 「そうではありませんが、間違いなく松樹さんとはできないのです」 「だったら何よ」  杉元は松樹の目をじっと見つめた。 「笑いませんか?」 「笑わないわよ。私だって大概おかしい性格してるから」  一応は自覚しているらしい。そういう問題ではないのだと、杉元は意を決して口を開いた。 「……僕はいちご大福なのです」  その言葉を聞いて、松樹が一瞬考えこむ。 「ボクハイチゴダイフク? 何それ、呪文? まさかここまできてロボットでしたとか言い出さないでしょうね」 「いやいや。僕はれっきとした有機生命体です。そうではなくて……僕が性の相手として欲情できる――興奮できる対象が、いちご大福という話なのです」  理解できないと言いたげに松樹が首を傾げる。 「……おかしな話ですし、どうしようもないと思っていた時期もありましたが……今の僕は、リアルの女性ではなく、いちご大福にしか興奮しない体質なのです」ぽかんとしている松樹。「すいません。実は……昨日のことは全部覚えております。記憶はなくさないタチなので」 「え、嘘……」
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