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松樹が頷いて笑う。
「私もさ、女を捨てるつもりはないのよ? 人並みに幸せになりたいし、だから頑張ってみたの。でもね、どんないい人に会っても、何ともこなかったのよ。顔も体も。マンガとかアニメだってダメ。今も全然」そう言ってから、松樹は杉元の胸板や二の腕の感触を確かめるように、その指先で触れた。「あんたも並の女だったらほっとかない体つきしてるのにね。顔もそこそこいいし。何かスポーツやってんの? 機械に得意そうだったけど」
「これでも警察官ですからね。多少は鍛錬しておりますよ」
「そうなんだ。……公務員でいいカラダしてて性格もまとも。なのに、どうしていちご大福なんだろうね」
その言葉は杉元にではなく、同じような体質の自分に向けているようにも聞こえた。
松樹だって背は小さいが美人だし、確固たる夢を胸に日々仕事へと打ち込んでいる――充分素敵な女性のはずだ。それなのに、男に興味がないとはどういうことなのだろう。
人は誰しも体を選べない。それは心も同じなのだろう。
神様がいるのなら、自分たち二人はどういう理屈で作られたのか、それを問いただしたかった。意地悪をしたのか、それとも豊かな人生となるようあえて試練を与えようとしているのか。
そんな二人を引きあわせた、その意図は何か。
「それにしても……三國が聞いたら腹を抱えて笑いそうですね」
腕の収まりが悪かったため、松樹の背中を包み込むように両手を置きながら、杉元が苦笑する。
「どうして?」
「僕と松樹さんをくっつけようとしていたからですよ。だから松樹さんをわざわざ喫茶店に呼び出して話を聞かせようとしたのです」
「うへ、そうだったんだ。そういうもんなんだと思ってたわ。でも、あんたがそうだと知ってたら彼氏いるなんて話、しなくても良かったわね」
「これまで、言い寄られて困ったことがあったのですね?」
すると、松樹は照れ隠しではなく普通に悲しい目をした。
「自慢じゃないけどさ、けっこういたのよ。私、ちっちゃいじゃない? だから、でっかい人とかロリコンの気がある人に好かれやすいわけ。そうそう。あんたも和洋菓子本舗に行ってたんなら、一ノ瀬さんって見たことある? 木崎さん並にでっかい人」
「ああ。用心棒みたいな方ですね。娘さんをお嬢さんと呼んでいた……」
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