キャリーバッグ女といちご大福男

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 ベージュのカーディガンを羽織り、床につきそうなほど長いレイヤードスカートは、チェックと花柄、カーキ色の単色という三つの生地が使われていて、どれもこれも淡い色使いが、全体として草花や自然を愛でていそうな雰囲気を醸し出していた。  顔と服装のちぐはぐさが印象強かったのだろう。二人の横を通り過ぎて受付へと向かった彼女を、三國は二度、三度振り返りながら歩き、角を曲がったところで思い出したように呟いた。 「あれが森ガールってヤツだな」 「そうですか?」振り返って杉元もさっと眺めてみたが、後ろ姿しか見えなかった。「どちらかと言えばジプシーではないですか? 主義主張の強い、扱いづらいタイプの」 「ま、そんな顔してた気がする。どっちにしろ、お前に女の話は無用だったな」 「なら言わないでくださいよ」  小さく笑い合いながら二人が通路を進んでいくと、目的の部屋まであと十数歩というところでそのドアが開き、中からブルーの術衣を着た老医師が現れた。  彼はマスクを外し深呼吸すると、真っ白な髭を掻きながら二人の姿を見つけて右手を挙げる。 「おー、三國くん、やっと来てくれたな! それに杉元くんも久しぶりじゃないか! 今終わったところでね! いやいや、バッチタイミング!」  低く野太い声が廊下に響き渡る。まるでオペラ歌手のような通るその大声に、二人は顔を見合わせて苦笑しながら会釈した。 「先生、聞こえてっから大丈夫です」彼の耳を気遣ってだろう、三國もやや大きめに声をかける。「遅れてすいません。で、死因は分かりましたか? やっぱ毒物ですか?」 「いやいや、簡易検査じゃ何も出なかったぞ? 死因は後頭部に受けた打撲による脳挫傷でな、頭蓋骨が割れちまってて、誰がどう見たって他殺だったぞ? 結果的に少し吐いたってだけだ。まったく、ただの傷害致死だというのに……どうせ時間稼ぎをしたくてここに運ばせたんだろ? 三國くん、ヤマに言っといてくれ。こんな仕事してるようじゃ、定年前に退官させられる羽目になるぞ、とな!」表情は穏やかだが、その怒りはかなりのものらしく鼻息を荒くする老医師。 「本当にすいません。俺からも言っときますので」三國が深く頭を下げた。
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