強奪

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「木崎さんと同じで、一ノ瀬さんも元プロレスラーなのよ。怪我で引退した時に、伝手を頼ってあそこで働き出したんだって。取材の度にさ、すっごい口説かれて。もう何度デート断ったか分かんないわ」 「それは……難儀でしたね」 「好かれてていいじゃんって言われるけどさ、こっちにその気がないならただの迷惑でしかないのよね。だから、わざとあの人のマイクロブログをフォローして、休みの日を狙って取材とかしてたの。ホント、大変なんだから」 「なるほど。そんな経験をしていたら虫除けをしたくなりますよね。しかし……三國の気遣いも含めて、この二人の前では全く意味をなさないあたりが、おかしいですよね」  同じことを思ったのだろう。松樹も笑ったのを見て、杉元も微笑んだ。  いちご大福にしか欲情しない男と、性欲のない女。その二人が今は裸で抱き合っているのだ。そこには心地よさも快感もない。まるでアダルトビデオを見てしまった幼い子供が、好奇心で真似をしているように見える。 「で、この後どうすんの?」 「そうですね……とりあえずは家に帰って父に報告しないといけません。既に連絡は行っているでしょうが、それでも僕の口から事情を聞かないことには収まらないと思いますので」 「大変ね。んで、それからは?」  と、松樹が唇を可愛らしく突き出しながら、上目遣いで杉元を見つめてくる。 「そんなことをしても無駄だと分かったばかりではないですか。昨日も散々言いましたが、僕は捜査に同行できなくなったばかりか、署に出入りすらできない身なのですよ? 煩わせたくないので、三國にも連絡したくありません」 「ふーん」松樹がニヤリと笑って、杉元の頬を触った。「じゃあ、私が捜査する分には問題ないわけでしょ?」 「……何を企んでいるのですか?」 「大丈夫。あんたが復職できなくなるような真似はしないから。それにさ、あんただってこの事件を解決したいんでしょ? 自分の手で。最初から」  否定はできなかった。  いつもは捜査協力という形の思いやりを受けて三國の捜査に同行させてもらっていたが、それはそれで苦痛だったのだ。初動捜査から参加できるわけもなく、スポット的に三國の助手として金魚のフンのようについてまわり、事件の規模が大きくなれば身を引く――その繰り返しだったからだ。
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