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途中経過や結末を、三國や同僚から聞いて満足する生活。だが、今回は不審死の発見という捜査のスタートから関わることができて、刑事という職に一歩近づけたような気がしていたのだ。これを捨ててしまうのは惜しい。
「このままテレビで結末を見る側に回っちゃっていいの?」
自分を見つめてくるその目には、何でも見透かしているような雰囲気さえあった。
「う……」
「よし、決まりね。それじゃまず、あんたんちから行くわよ」
そう言うと、松樹は杉元の腕の中からするりと抜け出し、ベッドから降りたかと思うと服を着始めた。
「どうしてそうなるのですか? なぜうちに?」
「さっき電話あったのよ。あと一時間でチェックアウトなんだって。とりあえずあんたも着替えたいでしょ? あと、私も洗い物したいから洗濯機貸してよ。それにお腹も空いたから――朝ごはん食べながら作戦会議するの。ほら、早く」
「は、はあ」
急かされるように杉元も服を着ると、二人は慌ただしくホテルを後にした。こうして松樹に振り回されるのは何回目だろうか。
彼女となら事件をこの手で解決できるかも知れない――そんな根拠のない自信を、杉元は持ち始めていた。誘拐事件にまで発展しているし、何十人も投入している警察を出し抜けるとは到底思っていないが、松樹と一緒なら、最後まで何らかの形で事件に関与し、その結末を見届けることができるのではないか。
そんな確信にも近い予感がしていたのだ。
だからといって、まだ積極的に動くことはできかねる。
「……いないようですね」
コインパーキングに停めた車を拾って自宅に戻った杉元は、恐る恐る玄関のドアを開けて中の様子を伺った。もう一台の車はない。どうやら父親は出かけているらしい。
「へー、けっこう大きい家じゃない」
「祖父の代からある家ですから。どうぞ」
中へと入った杉元はキャリーバッグを自室に置かせると、松樹に使い方を教えて洗濯をさせる。
その間に杉元はジーンズとパーカーに着替えを済ませ、歯を磨き、スマホでメールのチェックをした。三國や同僚たちからは何の連絡も入っていない。次にウェブでニュースをざっと斜め読みしたが、報道規制は継続されているらしく、誘拐事件のことは何も報道されていなかった。
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