81人が本棚に入れています
本棚に追加
洗い物をひと通り終えた松樹が戻ってきて、もこもこしたニットとジーンズに着替える。杉元の部屋にある突っ張り棒にスカートやら下着を掛けて干すと、二人は食事に出かけた。
向かったのは西日暮里の駅前にある無国籍料理の店だった。メインはトルティージャやパエリアといったスペイン料理だが、トムヤムクンのようなアジアのものもあって、バラエティ豊かなメニューを提供している。
「こんなお店があったのですね」
「行きつけとか家で食べるのもいいけど、色んなお店に行くのって単純に楽しいわよ」
「はあ。そういうものなのですね」
「ま、あんまり興味なさそうだけど。話のネタになるでしょ?」
どうやらこの店にもよく来るらしく、店員に挨拶して奥のボックス席に向かう。四つある席の手前側に杉元が腰を下ろすと、松樹はその向かいではなく隣に座った。
「……どうして隣に座るのですか?」
「いいから。ほら、何を食べるか考えて。あと、ゴチになります」
半個室のようなそのテーブルで待っていると、水とメニューが運ばれてくる。何にしようか。それほど腹は減っていない。ここは何がお勧めなのか松樹に問いかけようとした時、テーブルに影が落ちた。
「まさか、あんたから連絡が来るなんて思ってもなかったよ」
それはグレーのスーツを着た三國だった。徹夜でもしたのだろうか、目にうっすらとクマができている。
「健次郎ではないですか。どうしてここに……?」
「新一、大丈夫か? 昨日はホントにバタバタしちまってメールも返せないままでな。……ってか、それは俺が聞きたい。どうして一緒にいるんだ?」
「あー……」
なぜ三國を呼んだのか。展開が見えてしまった。余計なことはするなと釘を刺そうとした瞬間、松樹が突然腕を絡めてきたのだ。
「私たちね、付き合うことになったのよ」
「マジか!」
「はあ?」
たち、を強調した松樹に二人が驚く。
「新一が驚いてどうすんだよ。嘘なのか?」
「え? あ、いや、そういう意味じゃ――」
「あんたがセッティングしてくれた喫茶店で意気投合しちゃってね。話が合うの何のって」
「何? そんな素振りなかったじゃねえか」
三國の杉元を見る目が疑惑の色を強めていく。
最初のコメントを投稿しよう!