強奪

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 洗い物をひと通り終えた松樹が戻ってきて、もこもこしたニットとジーンズに着替える。杉元の部屋にある突っ張り棒にスカートやら下着を掛けて干すと、二人は食事に出かけた。  向かったのは西日暮里の駅前にある無国籍料理の店だった。メインはトルティージャやパエリアといったスペイン料理だが、トムヤムクンのようなアジアのものもあって、バラエティ豊かなメニューを提供している。 「こんなお店があったのですね」 「行きつけとか家で食べるのもいいけど、色んなお店に行くのって単純に楽しいわよ」 「はあ。そういうものなのですね」 「ま、あんまり興味なさそうだけど。話のネタになるでしょ?」  どうやらこの店にもよく来るらしく、店員に挨拶して奥のボックス席に向かう。四つある席の手前側に杉元が腰を下ろすと、松樹はその向かいではなく隣に座った。 「……どうして隣に座るのですか?」 「いいから。ほら、何を食べるか考えて。あと、ゴチになります」  半個室のようなそのテーブルで待っていると、水とメニューが運ばれてくる。何にしようか。それほど腹は減っていない。ここは何がお勧めなのか松樹に問いかけようとした時、テーブルに影が落ちた。 「まさか、あんたから連絡が来るなんて思ってもなかったよ」  それはグレーのスーツを着た三國だった。徹夜でもしたのだろうか、目にうっすらとクマができている。 「健次郎ではないですか。どうしてここに……?」 「新一、大丈夫か? 昨日はホントにバタバタしちまってメールも返せないままでな。……ってか、それは俺が聞きたい。どうして一緒にいるんだ?」 「あー……」  なぜ三國を呼んだのか。展開が見えてしまった。余計なことはするなと釘を刺そうとした瞬間、松樹が突然腕を絡めてきたのだ。 「私たちね、付き合うことになったのよ」 「マジか!」 「はあ?」  たち、を強調した松樹に二人が驚く。 「新一が驚いてどうすんだよ。嘘なのか?」 「え? あ、いや、そういう意味じゃ――」 「あんたがセッティングしてくれた喫茶店で意気投合しちゃってね。話が合うの何のって」 「何? そんな素振りなかったじゃねえか」  三國の杉元を見る目が疑惑の色を強めていく。
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