強奪

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「さて、事情も説明したことだし。……あの和洋菓子本舗はどうなったの?」と、切り出した。分り易すぎる。一瞬戸惑った三國の顔を見て、さらに松樹は続けた。「あのね、この人……新一さんがね、すごい悔しいって言ってたの。ベッドの中で。事件に最初から関われたのはこれが初めてだったそうじゃない。あんたに聞いてみたらって言っても、健次郎に迷惑がかかるからダメだって言ってたのよ」 「そう言うだろうな。ま、元から新一には話すつもりだったけどよ……松樹さんもいるとなると、ちょっとな」  戸惑う三國。 「何言ってるの? 新一さんと私とはソウルメイト、一心同体になったのよ? 昨日は実際に一つになったわけだし」  なってない。 「マジか……新一、お前……ホントに克服できたんだな」  むしろ裸になった女性の胸と尻を触っても興奮すらしなかった自分の深刻な状態を再確認しただけだった。 「だけどよ、これは機密情報なんだ。おいそれと部外者に話すわけにゃいかないんだよ」 「新一さんだけに話すのね?」松樹が寂しそうに俯いて呟く。「何でも話し合える仲になろうって約束したの。ベッドの中で。なのに、すぐ隠し事ができるなんてショックだわ。きっとこうして、どんどん私に言えないことが出てくるのよね。寂しくなりそう」  どうやら自分を気遣う親友としての三國を揺さぶる作戦に切り替えたしたらしい。 「あ、いや、そういうわけじゃねえんだけどよ」 「いいの。警察官の彼女になるってことは、そういうことなんだって分かってたから。でもね、いざ目の当たりにすると……こういうことが何回も続くのね、って思っちゃって。ちょっぴり悲しくなってきちゃったの」 「いや、だから……」 「徐々に気持ちの距離が出来てくるんだわ。ううん。そんなことにならないぐらい大好きだけど、でも……」  松樹が顔を上げる。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。さっき俯いたのは生あくびで涙を作るためだったのを、杉元は見逃さなかった。  どうしてこの人は女優にならなかったのか。フードジャーナリストよりよっぽど向いていそうだ。その証拠に、三國はゆっくり頷くと、 「あー、分かった。ただ、口外はすんなよ? あくまで情報提供者との情報交換ってことにしてくれ」  と、了承したからだ。本当に申し訳ないと、杉元は心の中で三國に謝罪した。 「ごめんね、三國さん。気を遣わせちゃって」
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