強奪

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「しょうがねえよ。これでお前らが別れて新一の幸せを俺がぶち壊したことになったら、今度は俺が親父さんに殺されかねねえからな。それにあんたは信用できるってことは分かってるし」 「え?」  松樹が首を傾げる。 「ひと通りデータベースを当たったけどよ、前科はなかったし、有川からもあんたは犯罪に手を染めるタイプじゃねえって聞いたしな」 「……疑ってたんだ」 「そりゃそうだろ。目撃者のつもりだったんだろうが、第一発見者でもあったわけだ。一通り調べたさ」松樹が目を見開いて驚いている。「来た来た。んじゃ、食いながらで」  運ばれてきたカレーとパエリアを食べながら、杉元には重複した情報になると前置きをして、三國は声のトーンを少し落としながら話を始めた。  和洋菓子本舗の店主である木崎は西谷殺害を含む四件の暴行を認め、公務執行妨害、傷害致死、傷害の罪で正式に逮捕された。供述は遺体の状況や被害者の証言と一致しており、疑いの余地はない状態で立件に向けて準備が進んでいるところだという。  その動機となった娘の誘拐事件についても、妻の証言と携帯電話の通信履歴で裏付けが取れたという。  そこから先については進展がなかったらしい。誘拐が発覚するまでの経緯については木崎本人から聞いていた内容と同じだということなので、杉元が簡潔に説明する。 「あやちゃんが誘拐……」  松樹はパエリアを食べる手を止めてそう呟いた。 「知り合いなのか?」 「二、三回取材した時に、話したことがある程度だけどね。可愛いし、料理の話もできて……あ、そうだ。マイクロブログでフォローしてるのよ」 「なるほどな。まさか本人から連絡が来たりしてねえだろうな?」 「ううん。取材の時以外で話したことはないわ。でも、名前は覚えてて……」  ショックを受けているらしい。それもそうだろう。知り合いが犯罪に巻き込まれるなど、この日本では滅多にないからだ。 「……でも、何で犯人はそんな回りくどいことをしようとしたの? ヘルシー羊羹セットを頼んだ客がメモを渡すだなんて。時間を引き伸ばす意味なんてなさそうだけど」  松樹の問いに、三國が頷く。
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