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JR西日暮里駅構内のトイレ前、池袋駅東口を出てすぐの喫煙所、品川プリンスホテル内の映画館にあるチケット売り場、東京駅の大丸一階のバームクーヘン屋の近く、それとスカイツリーの展望台。
それぞれ指定されたメーカーのリュックに入れて置いておくようにという内容だった。
「どれもこれも、人の多い場所ですね。警察をからかっているようにしか見えません」
「録音した犯人の声を聞かせてもらったんだがな。からかってるってよりは、挑戦って感じもした。捕まえてみろ、ってな。実際、俺たちが関与してんのも勘づいてるらしい」
「でも、まだ娘さんは殺害されていないのですよね?」
「単に時間が経ったからそう疑心暗鬼になってるって線もあるけどな。だが店は定期的に見張ってて、特に受け渡しの時間は監視するから、警察の動きが少しでもあったら躊躇なく殺すと脅しをかけてきやがった」
「そうなると、犯人は少なくとも二人はいるってことよね」食欲がなくなったものの、それでも作ってくれた食事を残すのはモットーに反するのだろう、松樹は再びパエリアを食べながら三國に聞いた。「最低でも五つのうち一つを奪えたら勝ちってことなんでしょ?」
「そうだろうな。だから本庁にも応援を頼んで、それぞれの現場で張り込みを始めてる。遊撃隊も準備中だ」
いよいよ大掛かりになってきた。相当な人数の捜査員が投入されているのだろう。なのに、抜け駆けして報道するマスコミが現れないのは、人の、それも未成年者の命がかかっているからに違いない。
これが成人男性だったらどうなっていただろうか。中年だったら。自分だったら。命の危険を無視してリークするメディアが現れないとも限らない。
余計なことを考えてしまったと、杉元は頭を振って三國を見やった。
「それで健次郎はどこへ張り付く予定なのですか?」
カレーを食べ終えた三國がふうとため息をつく。
「うちの署は西日暮里と池袋の担当なんだけどよ。俺は一人店に残って親父の監視役になっちまった。顔見知りの俺がいると、うかつには動かねえだろって本部の判断なんだよ」
「逃げようとしたのですか?」
「いや……あの親父、隙あらば勝手に犯人と取引しようとしやがってな。無線連絡を聞いてどっかに車飛ばして行きかねねえんだよ。全く、貧乏くじ引いちまった」
水を飲み干した三國が財布から千円札を取り出してテーブルの上に置く。
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