強奪

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「んじゃ、俺はそろそろ行くけどよ。今言った五箇所には絶対近づくなよ? 捜査本部で署長も全部の場所をモニターで見てるらしいから」 「もちろん分かっておりますよ。ねえ、松樹さん」  三國と杉元の視線が松樹に集中する。パエリアを食べ終え紙ナプキンで口を拭った松樹はにっこりと笑った。 「それってフリと受け取っていいのよね?」  二人が苦笑いする。 「コントじゃねえんだよ。新一の顔が映った途端、俺の首が飛んじまう」 「だったら、私一人で――」 「絶対に行かせませんから安心してください」杉元が松樹の肩を掴んで振り向かせ、目で叱った。「それでは、気をつけて行ってきてください」 「ああ。お前らはゆっくりデートでもしてろよ。んじゃな」  三國は手をひらひらさせながら店を出て行った。  この後どう展開するかは分からないが、おそらく今日中になんらかの結果が出るだろう。そうと決まれば他にやることもないが、このまま店に居座る理由もない。杉元は残りのカレーを急いでかきこみ、席を立とうとして――裾を引っ張られていることに気づいた。 「とりあえず連絡待ちですよ?」  釘を刺すようにそう言うと、松樹が裾を引っ張ったまま頷いた。 「ねえ。何かおかしいと思わない?」  こちらの話など聞いていないらしい。その瞳は宙に向けられている。 「何がですか?」 「誘拐して警察がいるかもって分かってて……それでたった一千万を奪うために頑張るわけ? リスク高すぎじゃない?」  とりあえずこのまま店で話していて誰かに聞かれるのはまずい。上の空な松樹を連れて立ち上がると、レジで支払いをすませてそのまま外に出る。向かったのは家だった。 「根拠のない予想ですが、一千万を奪うことすらしないと思っています。誘拐したはいいものの、悪戯に時間を引き伸ばしてしまい、警察が出てきたことによって考えをシフトさせたのではないでしょうか」 「じゃあ、何目的なの?」 「先ほども三國が言っておりましたが、警察に挑戦的なあたり、愉快犯なのだと思います。劇場型犯罪というものがありましたよね? 警察を翻弄して、慌てるさまを見て楽しむ。なのでおそらく犯人は五箇所のうち、どこかに現れるはずです。すぐに逃走することも考えていて、それで遊撃班も編成したのでしょう」
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