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「はー、なるほどね」とは言うものの、ただの生返事らしい。「んでさ、あんたはその映像とやらをどっかから割り込んで見れたりしないの? 機械得意でしょ?」
「見れませんよ。そもそも、どうやって撮影しているかも分かりませんし」
「捜査本部ってどこにあんの? 司令塔はそこにあるのよね? ……でも、あんたが入れるわけないか」当たり前だ。署に行っただけでも何を言われるか分かったものではない。「そうなると、残りはあそこしかないか。お店なら三國さんがいるし、動きがあれば何かしら分かるわよね? よし、行くわよ」
と、歩きかけた松樹の手を引いて止める。
「……僕と三國を退職に追い込みたいのですか? それに犯人に見つかりでもしたら、娘さんに危害が加えられるかも知れないのですよ?」
「そんなことぐらい分かってるわよ。私だってあやちゃんに怪我させたくないの。別にお店の中で見張ろうってわけじゃないのよ。ん?」そう言って、松樹はスマホを取り出して何やらチェックし始めた。「あー、今日は一ノ瀬さん休みなんだ。だったら、お店の中でもいいかも?」
と、昨日の日付で用事があって休むと報告している一ノ瀬のものらしいマイクロブログを見せてくる。
「じゃあ行きましょう、ってなると思いますか? ダメです」
「冗談だって。あそこを見下ろせるビルがあるの。オペラグラスも持ってるし、ほら、行くわよ」
一人で勝手に行かれても困るため、とりあえず近くまでは行ってみようと杉元も歩き出す。一キロもないため、二人は尾久橋通りを歩いて日暮里へと向かう。松樹が案内したのは、和洋菓子本舗の入口から見て斜向かいにある、コンクリート打ちっぱなしの雑居ビルだった。
店舗から見えないように裏口から入ると、狭いエレベーターに乗り込んで上へと向かう。五階建てらしく各階にテナントが入っているようだが、プレートの名前を見ても何の会社かまるで分からなかった。
「このビルにも知り合いの方がいらっしゃるんですか?」
「いないわよ」
「……はあ」
最上階は、まるで物置のようだった。屋上に向かう階段には大小様々なダンボールが山積みになっており、狭いその間を縫うようにして昇っていくと、松樹は背負っていたリュックから鍵を取り出し、ごく普通に施錠を外してドアを開け、外に出た。
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